〔五限目〕リリカルに本望に

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「…何が清廉潔白なんだか。」  ペンを手に取り、言葉を紡ぐ。  突然の見合いの連絡。するかしないかも問わずに、両親は明日帰るとだけ言葉を残しました。それを受けた私は、形容しがたい苛立ちを覚えました。書いていくうちに分かるのではないか、と今ただひたすらに言葉を紡ぎます。  両親は遠方で暮らしています。私は今一人のお手伝いさんと毎日の生活を共にしています。お手伝いさんはエリートでも何でもなく、一般のお方です。それでも私以上の何かを持っているのです。身分に縛られることが少ないからでしょう。私を鳥籠の中の鳥と称すのなら、彼女は鳥籠から抜け出した鳥。私はきっと密かに外の世界に憧れていたのかもしれないと思いました。箱入り娘という言葉があります。井の中の蛙大海を知らず。私はまさに今その状態であると思っています。大事に大事に過保護にされ、世界から目を背ける、事実から目を背けることが間違っていることだってあるのだと今日(こんにち)思いました。  お手伝いさんと出会ってからの、会話の節々を思い出しては感傷に浸っています。自由な彼女が私は好きなのだと思いました。憧れているのだと思いました。私は今の暮らしに満足しています。心から。私の苛立ちは、その暮らしを乱されるかもしれないと感じたことによるものだと思いました─。
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