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「……へ、へへ…。ここで働き始めてからここまで疲れたことないなぁ…。」
ウォンツ嬢しかいない。
ミス・ウィンウィンは顔をしかめる。シャツのボタンを閉め、プリーツスカートの留め金をパチリとはめる。そしてネクタイを締める。
「……何が経験豊富なんだか。恋人なんていた試しないし…。」
ネクタイの結び目を整え、位置を整え、満足のいく形になると、今度はセーターを着る。
「いっそのこと、友達に聞くしかないか…?カレカノいるようなやついたっけ。」
再度ネクタイの位置を整え、ブレザーを羽織る。ブレザーのボタンを閉めるようなことなせず、変なところがないかと鏡を見つめる。
変なところはない、と確認したミス・ウィンウィンは通学カバンを手に待ち構えているであろうウォンツ嬢の元へと向かう。そんな彼女の頭の中では、恋という一文字が巡り巡っていた。
「いやいや。考えすぎたら拗れる。拗れるから。」
ウォンツ嬢の問いに頭を悩ませても仕方ない。ミス・ウィンウィンはブルブルと頭を振った。さながら水を飛ばしている犬のようだ。
部屋を出て一階のロビーに辿り着くと、そこには踵を上げ下げしながら鼻歌を唄うウォンツ嬢の姿があった。
「お嬢様?」
「…あらっ。来ていたのですね。ワタクシったらつい。」
「…何の歌なんですか?」
「内緒ですわ。」
ウォンツ嬢は長く淡い色の髪を揺らした。ウォンツ嬢は元来明るい性格であるが、先程の様子はいつも以上に楽しそうであった。ミス・ウィンウィンは問い詰めることもせず、「行きましょうか」と一言発して扉を開ける。
「ありがとう。」
「いーえ。」
ミス・ウィンウィンはそう返した直後に欠伸をかいた。先程までは様々な考えが頭を巡っていたが、白紙に戻し切れたことで気が緩んだらしい。
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