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けどあの子はそれをおくびにも出す様子はなく、純粋にただわたしより評価が上であることを見せつけたい。って熱意を燃え立たせてるように思えた。
もしかしたら純架に勝ったことをきっちり証明できるなら、夏生との将来なんかどぶに投げ捨てても構わない。とでも考えてたのかもしれない。実際の当時の気持ちは菜由本人にしかわからない、としか。
「…女の子の考えって。ちょっとよくわからない。本末転倒…」
横でぼそぼそ嘆息してる高橋くんのことはとりあえず一旦無視する。
「まあ、うちの親はちょっと特殊で。大事な娘をサルーンになんか差し出す気はない、と外ではともかく家の中では結構昔から大っぴらに口にしてたから。母はそんなだし父はそれに対して何も言わなかった。だから、家の外の集落の意見と両親の価値観が違ってるんだな、ってのは何となくわかってたから…」
「お母さん。ちゃんとしてるなぁ」
さすが、純架の母。と変な感心の仕方をする高橋くん。あくまで彼は反サルーン派らしい。まあ、…わからなくもない、けど。少なくとも集落の感覚が外での一般常識とは違うってのは。さすがに何となくわかる。
「だから、ここでわたしがサルーンに選ばれなくてもうちの親はがっかりしないなってのは実は知ってた。でもよその家は多分、そうじゃなかったんだと思う。絶対ここでいい評価をもらわなきゃ、ってみんなが俄然張り切ってたところを見ると」
何と言っても年代的には破裂しそうに肥大した自意識でぱんぱんの、十五歳の女の子が四人。
この中の誰が一番魅力的で、男の人から求められるかな?って横一線に並べられてどん!って号令されたも同然。って考えたら、そりゃ具体的な報酬なんかあってもなくても。せめて自分が最下位だなんて思いたくないってむきになって前に出ようとしてもおかしくない。
サルーンの方でもひとりずつ個別に面接するわけでもなく、あえて同年齢全員をいっぺんに集めて研修させるのはやっぱり互いにライバル意識を高めさせて、我こそが!と競い合ってほしい。っていう考えがあってのことなんだろう。
もっともその中でわたしだけが、前述のとおり家族の意識の影響や自分自身の漠然とした気の進まなさもあって。微妙に腰が引けて全体に出遅れてた感はあったと思う。
子どもの頃から何となく、ひとり呆けっと空をいつまでも眺めてるのが好きで。ちょっと変わった子扱いされてたのが逆に幸いしてか、わたしがこのレースに乗りきれてなくてもまあ、純架は。もともとそういう子だから…って他の子たちもそんなに気にはしてない様子だった。
どのみちその頃には既に、師匠からは私が引退したら君にその後を任せようかな。と言われてて本人はもうそのつもりだったし。
周囲からもあの子はこのまま気象観測と天気予報の仕事を受け継ぐんだろうとナチュラルに思われていたから。サルーンに選ばれたい!ってあえてがつがつ行かなくても、割と許されてる雰囲気はあった。
一方で菜由だけは、わたしのそんな今いちやる気のない態度も。舐めてて許しがたい、と感じたらしく、研修中の期間もずっと何かとねちねち鬱陶しく絡まれる羽目になったが…。
「そうか。恋の恨みは怖いねぇ」
「ね」
まあ、その後の成り行きを見れば。そのときの頑張りが実を結んだと言っていいのか。結局同期の中で唯一、菜由だけが実際にサルーン入りを果たしてその上スピード出世で早くも懐妊、という目に見える結果を出すことになったわけで。
それがよかったのかどうなのか。わたしは夏生とどうこうなる気はないから、菜由がサルーンに入らず普通の生活をしていたらまだ今後に全然チャンスはあったんじゃないか。
とは思うものの、本人は見るからに誇らしげで幸せそうだったから。あの子がそれでいいのなら、もうオールOK、この話は終わり。で済ませていいのか…。今の段階で他人にはまだ、何とも判断のしようがない。
しみじみと何とも言えない微妙な苦さを噛みしめていると、がたがたと車輪の音を立てながら高橋くんがのんびり尋ねてきた質問にふと思いを破られた。
「研修ってさあ。具体的には何やるの。一週間、泊まり込みなんでしょ。まさかと思うけど…。十五歳の女の子たちに、集落の大人の男たちの夜の接待させるわけ?児童福祉法も何もない世界なのはわかるけど…。正直どうなのかな、と。…大戦前の常識に囚われ過ぎ?俺の考え方って」
いや、気持ちはわかる。心配してくれてありがとう。…けど。
「さすがにそれは…。あの、性接待はもちろんだけど。お酒の席につくのも無しだよ。一応この集落でも、過去の日本と同じにお酒は二十歳からって決まりなんだ。むしろ外の方がゆるゆるでしょその辺。法の埒外の無法地帯なんでしょ?お酒も煙草も薬もみんなやりまくりで」
「…そこまで修羅の国じゃないよ!」
憮然となって言い返されたところを見ると、外は外である程度一定の秩序は存在してるらしい。侮ったわけじゃないけど、少し失礼だったかも。
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