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一見一番いい場所だけど、そこは働いてる女性たちが寛ぐための広々としたサンルームになっていた。
洗濯物を干すための専用の空間もある。住む人間の快適さを優先するために採光のいい部屋を惜しげもなく活用してるんだとわかった。
集落の男たちが夜になると訪れてお酒を飲んで女の子とお喋りする、いわゆるバーになってる空間はその下の一階。思うに夜しか使われない場所だし、陽当たりは考えてみたら全然必要じゃないわけだから。これはそれでいいのかもしれない。
そして、女たちが居住している個室が居並ぶドアは。そのずっと奥、おそらくほぼ崖をくり抜いて造った空間にあった。
研修初日、意外に思ったのは。これでもか、というほどずらっと並んだ個室のドアの数が想像以上に膨大だったことと。わたしたちが泊まり込む部屋が完全に個室だった、っていうこと。
てっきり相部屋か四人部屋だろうと想像してたのに。たった一週間研修に来た子どもたちに一人一部屋与えられるくらいに部屋数が多いってこと?一体どれだけの奥行きがあるんだ、この建物?
「寝るぎりぎりまで上のサンルームでお話ししてていいわよ。でも、消灯の時間になったら全員きちんと個室に戻って寝ること。十五歳だからね、夜遅い時間の仕事は駄目。未成年にはまだ見せられないようなこともあるから」
そう言ってからからと笑うベテランの女性。わたしたちは漏れなく全員処女で初心だったから、漠然とイメージされるプロの『業務』を頭に浮かべるだけで何とも微妙な空気を漂わせて俯いた。
サルーンの女の人たちが男の人相手に何をするのか、もちろんうっすらとだけどちゃんと知ってる。それがわかっててもここで働くのに憧れるのか、って言われると。…うーん、何とも言えない。わたし自身はともかく、他の三人はできたら将来サルーンに選抜されたいと願ってるのが明らかに見えたから。
十五歳にはとても見せられない仕事。さっきまで、モニターの画面を見て友達のお父さんや近所のおじさんたちが女の子相手に酔っ払って浮かれてるのを見て遠慮なく笑ってた、あんなのとは違う。…身体を張った、集落にはどうしても必要な。…大切なお仕事…。
そんなイメージが頭の中でぐるぐるしてる状態で、普段と違う見慣れない部屋で一人眠る状況に変な影響を受けたのかもしれない。わたしはその晩、やけにリアルなあり得ない夢を見た。
…ごそごそ、と。布が擦れるような音と、誰かが声を落としてひそひそと囁き合うようなやり取りで目が覚めた。
でも、身体が動かない。それにどうやっても目が開けられない。だから起き上がって目を開けて周囲を確認することができなかった。ぴくりともできず、声も出せない。
金縛り、ってやつかな。と思うとちょっと一瞬ぞっとした。
だけどそこにいる人たちは全然霊って感じがしない。普通にそこにいる生身の人間の気配。存在感も、会話の内容も。
支離滅裂だったり妙に不気味だったり、おどろおどろしい印象もない。自分自身が全く身体が動かない、ってことを除けば。普通にその人たちがそこに存在してる、って考えてもおかしくないくらい、やり取りも自然に思えた。
…誰かがぎし、とベッドを軋ませてわたしの上に屈んで覗き込んでる。それは何となく伝わってくるのに。やっぱり目を開けられない。
「…よく寝てるよ、この子。どうやら大丈夫そうかな」
「本当?」
女の人の声が思案するように呟いたあと、悪戯っぽい男の人の声がして。わたしの頬がつんつん、と指で軽く突かれたのを感じた。
うわ、触られた。やめてよ、と憤然と首を振って抗議しようとしたけど。首を僅かにも動かせなかった。これじゃ、完全に熟睡してると思われても仕方ない。
「やめてよ、……さん。余計な悪戯しないで。起きちゃうじゃないの」
ちょっと苛立ったような抑えた声。お客さんだとしてもかなり気心知れてるというか。お互い言いたいことを遠慮なく言い合える仲って気がする、けど。
…本当、誰だろう。…この声。
名前も全然聞き覚えがないし(しかも今ではもう完全に忘れてしまった)。男性の声は、まるで咎められたのを堪えた風もなく笑いを含んだ調子で浮き浮きと言い返した。
「悪戯はするよ。だってそれをしに来たんじゃない?年に一度の、僕らの愉しみ。…ああ、この子。めちゃくちゃ可愛いなぁ。これからこんなキュートで清純な娘にいけないことするんだと思うと。…本当、ぞくぞくするよ…」
「……さん。僕らも見ていいんですよね?」
別の、もう少し若い声もすぐそばで。…そう、思い出した。
男性の声は一人分じゃなかった。あの個室は結構狭かったのに。…そう、三,四人は。男の人が、いたような。
そう考えるとやっぱり、あれは完全にわたしが脳内で作り出した夢だったんだろうか。あんな狭い空間に、いい大人が小さなベッドを囲んでみっちりと。…いや、この目で見たわけじゃないから。物理的に不可能だろうとまでは。断言できないんだけど…。
「おお、もちろん。君らにも関係あるからね。三年後、どんな娘としっぽりじっくりやりまくりたいか。腹の中にがんがん次々子種を仕込むにしても。そりゃ好みとか、あるだろ?」
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