第5章 キャットファイト寸前 in 配給

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いきなり格好を褒められて不意打ち過ぎて照れる。 「…こないだ見学したときにも見たと思うけど。服や下着もいっぱい、倉庫には在庫があるよ。特にインナーとかはね、それぞれにぴったり合う型も難しいし素材も特殊だと手作りしにくい。けど、普段の服まで全部倉庫のものだと枚数もバリエーションも限られるでしょ。だから、うちの母みたいに裁縫が得意な人が皆の分も作るの。幸い布地は山ほどあるし。だからこれも。うちの母が作ったものだよ、あとこっちも」 軽く身を引いて、自分の身につけたシンプルなコットンのブラウスとAラインのスカートを恥じらいつつ示す。 彼は案外お世辞っていう風でもなく、わたしの全身をつくづくと検めて感嘆して呟いた。 「色柄はあっさりしてて飾り気もないのにすごくお洒落に見えるよ。どうしてだろう、ラインが綺麗だからかな。君のほっそりした華奢な体型が。すごく洗練されて引き立って見える」 正面からどストレートに褒められてどうしていいかわからない。わたしじゃなくて服(と、それを作った母の腕)が称賛されてるんだ。とわかってても何だか身の置きどころがない。 「うーん…。多分、ちゃんと採寸して。個々の体型に合わせて作るからかな…」 「そっか、全部オーダーメイドなんだ。そう考えたら。すごく贅沢なんだな…」 丁寧な暮らし、ってやつだね。とわけのわからないことを言って感心してる。 空を占める雲の割合と風向きをいつも通り記録して、海辺を離れてまた集落の方へと並んで戻りながら彼は今の話題をさらに掘り下げてきた。 「確か、純架は天気予報の仕事に加えてお母さんの仕事の手伝いもやってるって言ってたね。てことは。君も裁縫が得意なんだ?」 そんなこと言ったっけ。ああ、確か。わたしにガイドを頼みたいと申し出たときに山本さんがそういう風に説明したんじゃなかったかな。 「得意、とまでは正直…。本当に誰でも出来る程度の補佐くらいで、母のレベルは全然無理だと思う。だけど、デザインは割と好きで。子どもの頃からこういうの縫ってって絵を描いては渡してたから。今でも母がパターンに行き詰まると、わたしになんか案出せ、って言ってくることあるよ。これも一応自分で考えたやつ…。本当はこうやって、首周りに柄の布をふわっとかけて軽く結ぶんだけど。普段は面倒くさいから省略しちゃう」 「なるほど。…そうするとバージョン違いになって、変化見せられるね。そういう工夫もあるんだ」 今度、そっちも見たいな。と優しい声で言われてまた照れる。この人たらしめ。 「集落の人の服、そしたら純架のお母さんが一人で一手に引き受けて作ってるの?」 確かに、こんな風に何でもない話をしながら集落の中をそぞろ歩いてるのも新鮮で楽しいな。と図らずも思う。わたしはただでさえ子どもの頃から、一人マイペースで好きなところを勝手にうろうろしてることが多い子だったから。 他人とずっといると息が詰まるだろうと予想してたけど、案外それほどでもなかった。まあ、これが夏生だったら…と想像したら無理無理、とすぐわかるので。やはり相性というのはあるのかもしれない。こっちは気楽でも向こうは無理してるのかもわからず、そこまでは何とも言えないが。 わたしは軽く首を振って、肯定とも否定ともつかない仕草で応えた。 「頼まれれば誰のでも作るから。多分、ほとんどの人のは大体作ってるはず。向こうから依頼して来ない人のは何とも言えない。自分の家族の服は自分ちで作ろうとする人もいるしね、もちろん。あとは配給ので充分、特別なお洒落とかたくさんのワードローブは要らないと考える人も…。でも、ここぞというときに着たい服がそれなりに欲しいって人は大抵うちに頼んでると思う。サルーンの女の子のドレスを作ったこともあるよ。わたしも手伝ったし」 ちょっと誇らしげに付け加えたわたしの方を、彼は怪訝な顔つきでもの問いたげに見返した。 「ていうか、ああいうのこそ。オーダーで君のお母さんみたいなプロに頼むんじゃないの?ここぞというときの勝負服、贅沢品じゃん」 そういう風に考えるのか。 言われて、そういえばこの人、多分一回だと思うけどサルーンに実際顔出してるんだ。そのときに彼女たちが身につけてる服を目にしてるはず。 ああいうのは非日常の特別な勝負服であって普通のいわゆる市販の服じゃない。あれこそオーダーメイド向きだろ、と考えたってことか。理屈としてはそれで合ってると思うけど。 「まあ、あんなの昔のスーパーとかデパートで売ってる出来合いの量産服じゃない。って言えばそうかなと思うよね、確かに。けどねぇ、どういうわけか。倉庫の在庫の中にあの手のとても普段は着れないドレス、めちゃくちゃたくさんあるんだよね。どうしてこんなに?もしかしてこの集落作った人、こういうの趣味なの?とか変なこと想像しちゃうくらい」 「…お水のドレスコレクション…。何でまた。ちょっと、怖いかも…」 何かをうっかり思い浮かべたみたいにこわごわと口ごもる高橋くん。
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