第6章 わるい夢

8/10
前へ
/22ページ
次へ
そう思って震える手で毛布を剥いで、パジャマが少しでも乱れてないかどうか確かめた。けど、意外にも。 ボタンはぴっちり襟元の一番上まで閉まっているし、ズボンも少しもずり下がってもいない。誰かの手で脱がされたようなあとは微塵も感じられなかった。 唯一、股間に当たってる部分の下着の布地にだけは。まだ湿ってる感じが残っている、ような…。 でもこれだって。わたしが夢の内容で興奮して発情した身体が、誰にも何もされてないのに勝手にひとりでに濡れただけだって。そういう可能性も、ないとは言えないし…。 そう思い当たると。今この瞬間まで、何かすごい酷いことされた。と被害者意識満々だったのが、もしかしたらわたし自身の中から出てきた妄想の一種?…と気がついて、思わずかぁっと頬が燃えた。 …だって、だとしたら。あんな風に、眠ってて身動きできない間に知らない男の人たちから集団でされるがままになりたい。って無意識の性的願望が、実はわたしの中にある。…ってことに。なるんじゃない? 何度自分を検めても、部屋の中を見回しても。やっぱりあれは夢じゃなかったんだと確信を持てる材料がひとつも見つからない。 本当にあったことじゃなかったのかも、と少しずつ納得し始めてくると。よかったぁ、まああんなこと現実にあるわけないよね。とどっと安堵が押し寄せてくるのと同時に、あんな夢見ちゃうなんて、恥ずかしい。っていういたたまれない思いも湧いてきた。 これまでほとんど、男性に対しての性的欲求なんて自覚したこともなかったのに。初めて無意識が求めたシチュエーションが、あれ?十五の娘が脳内で創作したと考えたら。さすがにマニアック過ぎる性癖じゃないか? だけど、緩く悪戯され続けるだけで最後まで至らないとか、いかにも想像力の追いつかない未通娘っぽい印象もある。そう考えるとやっぱりあれは、わたしの隠された欲求が脳内で捏ね回して作り上げた自分を満足させるストーリーなのか…。ってだんだん信じる気持ちになってきた。 ほっと安心すると、どうせ夢だったんだ。って思いでさっきの出来事を違う感覚で思い起こすことが出来るようになる。 抵抗できず、無理やり裸にされて。身体を広げられてみんな(知らない人たち)に恥ずかしい姿を見られて、あんなところや。…あんなエッチな、自分でも見たことや触ったことのない場所を。…あんな風にいやらしく、弄られて。 最後は口でめちゃくちゃにされて、たまらなくて思いきり、いっちゃった…。 すごく、気持ちよかったなぁ。…とついうっとりと思い返してしまい、そんな自分に気づいてひとり身を縮めた。 誰にも頭の中を覗かれてないなら。あんなのが気持ちよかった、感じちゃった。なんて思い起こしても別に平気なはず。他人にはどうせわかりゃしない、わたしの暴走した妄想やマニアックな性癖なんて。 けど、自分自身に対してはあの恥ずかしい想像をこの身体が求めた。って思うとやっぱりいたたまれない。多分サルーンって空間にいることで普段は意識しない心身の部分を無駄に刺激されて。家で寝ているときには思いつきもしない妄想癖が爆発したんだろう。 今日だけのことなら忘れてしまうに限る。と自分に言い聞かせてようやく気持ちが落ち着き、再び横になって毛布を頭まで被る。今は二日目、あと五日。ここに滞在する間、毎晩のようにあんな夢を見る羽目になったら。…身も心も休まらないし、やっぱりそれは嫌かな。 けど、あの快楽を疼くような思いでこの身体が待ち侘びてる。ってのも完全に嘘ではない。 本当に気持ちよかった…。とうっとりするような甘美な余韻と、知らない男たちに抵抗もできず玩具にされる恐怖と不快。それからうっかり感じちゃった自分に対する自己嫌悪がミックスされた実に複雑な感情を抱いて、わたしはドアに内鍵がかかってるのをしっかり目で確認して。ようやく安心して、もう一度深い眠りについた。 あれが万一本当にあったことなら。翌朝起きて同期の皆や、サルーンのママや先輩方の態度や言動から何かしらの変化を感じるかも。と考えて彼女らの様子を用心深く探ったけど。特に誰にも、異変は感じられなかった。 少なくともママは、あれが現実なら。実際にあの場に居合わせてたわけだし…と思うと余計に他の人たちに対するより注意深くなる。 けど、昨夜の男性客たちに対するきつい強めの接し方と。芯が通っていながらも言葉遣いはどこかふんわりと優しくて、常ににこにこと穏やかなこの雰囲気がどうにも頭の中で繋がらずしっくり来ない。 それにあの夢の中では。やけにわたしを庇ってこの子だけは駄目、とか。将来は天気予報担当として嘱望されてる得難い人材だとか妙に評価が高くて特別扱いだったのに。当たり前だけど、研修中はわたしたちの扱いは皆平等で横一線。中でもわたしのことにより詳しいとか目をかけてる、みたいな兆候は別に全然見られなかった。 そう考えるとあの特別扱いは、いかにも自分自身に都合のいいわたしの創作って感じがする。この子だけは駄目よ、なんて真剣に庇ってくれるほど。彼女がわたしをめちゃめちゃ個別認識する理由は何も思いつかないし。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加