第5章 キャットファイト寸前 in 配給

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確かに。戦闘が本格化して日常生活が営めなくなるまでは、普通にニュースも放送してたはずだ。この先も毎日見続けていればそのうち、そろそろどうやら世界情勢がきな臭いぞ?と感じるようなときが来るのかもしれない。 それが何十年、百年後になるのかはわからないけど。いきなりどん!となんの前触れもなく地球上の文明がたった一日で壊滅した、とは聞いてないから。注意して見ていればそろそろ開戦かな…、とかはある程度察知できると思う。しかし。 「平和な時代に生きてるっていう追体験がリアルにできるってのは、精神的安定にはいい効果があるとは思うけど。それにしても、当時の記録の残し方がいくら何でも適当過ぎるよね。あと何年分の物資と放送データがどれだけ残されてるのか。正確に把握するにも苦労するじゃん、これじゃ」 先人の考えなし具合を嘆くと、温厚な彼はまあまあ…、と無責任に文句言いたい放題のわたしを諫めた。 「言っとくと、集落の誰一人としてそれを承知してないかどうかはわからないよ?少なくとも、技術部の人たちは。ある程度最低限、今後どれだけ物資の在庫があるかはさすがに既に調査済みなんじゃないかな。純架も言ってたけど、あと百年分は余裕で在庫があるって断言してたよね、最初に。あれって、倉庫の中をきちんと精査した人がそう言ってたのを。みんなが伝え聞いて集落内で通説として周知されてるってことじゃないの?」 「ああ、…そうだね。そういえばわたしは学校で昔先生がそう言ってたのを。覚えてたような気がする、けど…」 確かに。学校の先生が生徒に向かって教壇でそう言い切るのなら、まるで根拠なしのただの風説だったらおかしい。 少なくとも、そう言えるに足りる何らかの情報は皆の間で共有されてるんだろう。技術部の人たちも段ボール箱を開けるのは駄目だけど、箱の日付を確認するのはOKだって言ってたはず。 それをずっと辿って行けば、このあと何年分の資源が倉庫に残ってるのかは。かなり正確に算出可能だろうと思う。 「…やっぱり、俄然倉庫の仕組みに興味が湧いてきたな。何とかして俺もあの段ボールだらけの部屋の奥に。立ち入らせてもらえないかな…。中身見せて、とまでは。さすがに言わないからさぁ…」 てか、できたら技術部の内部に入り込めたらいいんだけど。下働きで採用してくれないかな、と腕を組んで思案げに呟く始末。わたしはすっかり呆れて肩をすくめ、声をかけた。 「ここでの普通の日常の暮らしが見たいだけ、とか言ってたのに。結局そうやって探偵みたいな真似始めるんじゃん。何でもない平常運転の生活を観測するだけじゃ本当は退屈で、実は何かドラマチックな謎とかを。求めてるんじゃないの?」 深く考えずに適当に突っ込んだだけなのに。高橋くんはちょっとぴく、となって。不意打ちを喰らった鳩みたいな反応を見せた。 「…探偵?そんな風に見える?…そう、かなぁ…」 「まあ。…探偵が何をするもんなのかはまず置くとして、さ。当然ここじゃ、そんな仕事で食べてる人なんて。一人もいないから…」 思ったより強い反応が返ってきてちょっと怯み、そもそも大して深い意味もなかったので適当にごまかした。 もしかしたら棲みついてた図書館で古い探偵ものの小説でも読み漁ってて、内心ずっと憧れを抱いてたとかかな。まあ、この集落もだけど。外の食うや食わずの環境じゃさらに、呑気に探偵ごっこをするようなゆとりはとてもなかっただろうことは想像つくし。 だったら、秘められた集落の隠された謎を追う!みたいな遊びにある程度までは付き合ってあげてもいいのかもしれない。 これまで大好きな探偵の真似事をするような機会もずっとなかったんだろうから。ここでのんびり、そんな体験を楽しめるのも頑張って崖から飛び降りた甲斐があった、となって案外喜んでもらえるかもなと納得しつつ。わたしは彼と並んでいつもの習慣通りに役場の建物へと入っていった。 翌日の配給日。この前静まり返ってろくにひと気もなかった集落の外れの倉庫の扉は、いつにない活気に満ちて人混みでごった返していた。 「おお…、これで。集落の住民のほぼ全員がここに一堂に会してる、ってこと?」 結局、わたしと一緒について現場にやってきた高橋くんががらがらと台車を押しながらつくづくと辺りを見回し、感慨深く呟いた。近くにいる何人かが遠慮がちにちらちらと彼の方を伺ってるのを痛いほど感じながら、わたしは顔だけはことさらに余裕ある振りを装いつつごく小さな抑えた声で突っ込んだ。 「いや、今回うちの家からはわたしとあなただけでしょ。どこん家も家族全員じゃなくて代表者が受け取りに来てるよ。それでも全世帯から最低一人とか二人、って考えると。やっぱ壮観だよね」 普段は全く人の気配もないがらんとした崖の端っこの空間を埋め尽くすような人、人。わたしはさっと周囲を検め、視界に入った何人かの友人たちの方に軽く手を振って合図する。 その子たちの方でも興味津々で恐々と、わたしの隣の見知らぬ男性の様子を遠巻きに伺っていたようだが。思いの外びびっていたのかそっと手を振り返してきただけで全然こちらに近寄って来ようとしなかった。
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