758人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
◇
少しずつ日も伸びてきた六月の上旬。
白岩 芽依菜はカフェにいた。
パンケーキが有名なこのカフェは、平日でも行列が出来ている。今日は土曜日だったので、特に長い行列だった。
「ふぅ、やっと入れたねえ」
目の前で笑う親友に、芽依菜は頷く。
「それにしても、なんだかカップルばっかり」
ころころと笑いながらそう言う親友――志水 郁を見つめつつ、芽依菜はお冷に口をつけた。
そんな芽依菜を見て、郁がにっこりと笑う。
「なんていうかさぁ、芽依菜ってこういうところにいる容姿じゃないよね」
不意に、郁がそう言う。だからこそ、芽依菜は彼女の頭を軽くはたいた。
「そんなの、重々承知の上よ。……私、派手だし」
肩をすくめながら、芽依菜はそう言う。
芽依菜は腰までの緩く巻いたこげ茶色の髪と、少し吊り上がった形の目を持っている。さらに背丈は高く、胸は大きい。
一言で表せば『大人っぽい女性』もしくは『妖艶な女性』というものだ。
「こういう可愛い店が似合わないことくらい、ずっと昔から知っているわよ」
「ちょっとからかっただけじゃない」
ぷすぅとふくれっ面を見せる郁に、芽依菜は「知っているわよ」と言葉を返す。……ほんの少し、彼女をからかい返したかっただけなのだ。
「さぁて、気を取り直して。何頼む~?」
「私はベリーのソースがかかった奴がいいわ」
「はいはい。……あっ、すみませ~ん!」
郁がてきぱきと店員を呼び、注文を済ませる。飲み物とパンケーキを頼んで、郁はニコニコと笑う。
最初のコメントを投稿しよう!