第1章 会社の御曹司に「処女を貰ってください」と言ってみたら

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 ◇  少しずつ日も伸びてきた六月の上旬。  白岩(しらいわ) 芽依菜はカフェにいた。  パンケーキが有名なこのカフェは、平日でも行列が出来ている。今日は土曜日だったので、特に長い行列だった。 「ふぅ、やっと入れたねえ」  目の前で笑う親友に、芽依菜は頷く。 「それにしても、なんだかカップルばっかり」  ころころと笑いながらそう言う親友――志水(しみず) (いく)を見つめつつ、芽依菜はお冷に口をつけた。  そんな芽依菜を見て、郁がにっこりと笑う。 「なんていうかさぁ、芽依菜ってこういうところにいる容姿じゃないよね」  不意に、郁がそう言う。だからこそ、芽依菜は彼女の頭を軽くはたいた。 「そんなの、重々承知の上よ。……私、派手だし」  肩をすくめながら、芽依菜はそう言う。  芽依菜は腰までの緩く巻いたこげ茶色の髪と、少し吊り上がった形の目を持っている。さらに背丈は高く、胸は大きい。  一言で表せば『大人っぽい女性』もしくは『妖艶な女性』というものだ。 「こういう可愛い店が似合わないことくらい、ずっと昔から知っているわよ」 「ちょっとからかっただけじゃない」  ぷすぅとふくれっ面を見せる郁に、芽依菜は「知っているわよ」と言葉を返す。……ほんの少し、彼女をからかい返したかっただけなのだ。 「さぁて、気を取り直して。何頼む~?」 「私はベリーのソースがかかった奴がいいわ」 「はいはい。……あっ、すみませ~ん!」  郁がてきぱきと店員を呼び、注文を済ませる。飲み物とパンケーキを頼んで、郁はニコニコと笑う。
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