747人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
(へ、へぇぇ、あの人が、有名なうちの会社の御曹司……)
濃いめの茶色の髪は、少しふわっとしている。くせ毛なのか、はたまたそういう髪型なのか。
そこは定かではないし、芽依菜には知る由もない。彼のその目はおっとりとした形をしており、確かな色気を醸し出している。
(……『あの』夏目 康介さんで間違いないのよね……?)
前にふと、同僚の女性社員が話していた夏目 康介の噂。
それを思い出しつつ、芽依菜はこくんと深く首を縦に振った。
(確かに、なんていうか女性が放っておかないだろうなぁ……)
噂に違わぬ美しさを持つ彼。何だろうか。……そりゃあ、あんな噂が立つのもわかるような気がする。
まぁ、その噂を聞いたとき、芽依菜には別世界の人だと思ったのだが。
「……なにか?」
あまりにもじろじろと見ていた所為なのだろう。康介がちらりと芽依菜を見つめ、そう声をかけてくる。
なので、芽依菜は愛想笑いをして視線をグラスに戻した。揺らめくお酒の水面を見つめつつ、「ふぅ」と息を吐く。
その後、沈黙。小宮山は奥に引っ込んでしまい、今この場には芽依菜と康介しかいない。
彼は水を飲んでおり、何かを言う素振りもない。……多分、まさか芽依菜が自社の社員だとは思っていないのだろう。
(それにしても、あの噂が本当だったら……)
ぎゅっと手を握りしめて、芽依菜は康介の顔を見つめる。微かにアルコールが回った頭は、冷静な思考回路を失いかけていた。
最初のコメントを投稿しよう!