第1章 会社の御曹司に「処女を貰ってください」と言ってみたら

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(へ、へぇぇ、あの人が、有名なうちの会社の御曹司……)  濃いめの茶色の髪は、少しふわっとしている。くせ毛なのか、はたまたそういう髪型なのか。  そこは定かではないし、芽依菜には知る由もない。彼のその目はおっとりとした形をしており、確かな色気を醸し出している。 (……『あの』夏目 康介さんで間違いないのよね……?)  前にふと、同僚の女性社員が話していた夏目 康介の噂。  それを思い出しつつ、芽依菜はこくんと深く首を縦に振った。 (確かに、なんていうか女性が放っておかないだろうなぁ……)  噂に違わぬ美しさを持つ彼。何だろうか。……そりゃあ、あんな噂が立つのもわかるような気がする。  まぁ、その噂を聞いたとき、芽依菜には別世界の人だと思ったのだが。 「……なにか?」  あまりにもじろじろと見ていた所為なのだろう。康介がちらりと芽依菜を見つめ、そう声をかけてくる。  なので、芽依菜は愛想笑いをして視線をグラスに戻した。揺らめくお酒の水面を見つめつつ、「ふぅ」と息を吐く。  その後、沈黙。小宮山は奥に引っ込んでしまい、今この場には芽依菜と康介しかいない。  彼は水を飲んでおり、何かを言う素振りもない。……多分、まさか芽依菜が自社の社員だとは思っていないのだろう。 (それにしても、あの噂が本当だったら……)  ぎゅっと手を握りしめて、芽依菜は康介の顔を見つめる。微かにアルコールが回った頭は、冷静な思考回路を失いかけていた。
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