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「……あの、夏目、さん」
ゆっくりと彼の名前を呼んでみる。
すると、彼の視線が芽依菜に注がれた。何処となく色っぽくて、艶めかしい。本当に、美しい男性だ。
「はい。というか、名前……」
「先ほど、小宮山さんから聞きました」
そう言えば、康介がふっと口元を緩めた。その表情さえ、色っぽくてたまらない。男性経験のない芽依菜でさえ、くらくらとしてしまうのだ。そりゃあ、女性社員が熱を上げるのも納得がいく。
「……っていうか、元から俺の名前知っていたでしょうに」
何を思ったのだろうか。康介がそう言って、グラスを持って芽依菜の隣に腰を下ろす。彼の目が、芽依菜だけを映している。
……心臓がどくん、どくんと大きく音を鳴らす。
「うちの社員でしょう? 白岩 芽依菜さん」
頬杖をついた彼が、そう問いかけてくる。……その瞬間、芽依菜の心臓がひときわ大きく高鳴った。
「……し、って」
「えぇ、あなたは有名ですからね」
それだけを伝えた康介が、ごくりと水を飲む。水を呑み込んだだけなのに、途方もない色気を放つ彼。
ここに来るまでにすでに飲んだのか、仄かに赤い頬が、尚更それを増幅させる。
「有名……って」
「数々の男性社員を虜にしているのに、全員袖にするって」
けらけらと笑いつつ、康介がそういう。
……そんな噂、でたらめだ。そもそも、不本意すぎる。
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