第1章 会社の御曹司に「処女を貰ってください」と言ってみたら

17/28
749人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 芽依菜の言葉を聞いた康介の眉が、ほんの少し上がった。  それに気が付かず、芽依菜は水を飲む。冷たくて、喉を潤す美味しい水だと、思う。 「……友人に、恋人がいるんです」  ボソッと、芽依菜の口からそんな言葉が零れた。 「彼女、すっごく楽しそうで、幸せそうで。……結婚も視野に入れた交際って、どんなんだろって」  誤魔化すように、今度はお酒を口に入れる。美味しくて、もっと飲みたいと思う。けど、なんだか今日は普段よりもアルコールの回りが早いような気がした。  普段ならば、ここまで酔わないだろうに。 「なんでしょうね、人肌恋しいっていうんでしょうか。……夏目さんは、そういうときありませんか?」  ちらりと彼に視線を向けて、そう問いかけてみる。彼はごくりと息を呑んで、口元を緩める。  艶めかしくて、視線が離せなかった。 「まぁ、あるんじゃないですかね」 「ですよね」  肩をすくめて、芽依菜はそう言う。人肌恋しいときは、誰にだってあるはずだ。  たとえ、女性に苦労していないであろう彼だったとしても。誰も捕まらない夜は、あるはずで。  そう思って、芽依菜は笑う。彼と自分はそもそも住む世界が違う。……だったら、ここで。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!