聖域の森と天空竜(2)

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聖域の森と天空竜(2)

 その頃上空では冷静に状況を見定めた竜が再び攻撃を仕掛けようと構えていた。 「……驚きはしたが、そう何度もそんな威力の魔法を放ち続けることが出来るものか。お主が燃え尽きるまで攻撃の手を緩めねば良いだけのこと……覚悟は良いな」  そう言って竜は再び大きく息を吸い込み始めた。 「今ですマスター! このブレスまでの間が好機!」 「ああ解ってる! 行くぜっ! ジェネレート:なんかツエーデジファイア!!」  ログは竜が息を吸い込み首を反らした一瞬の隙に、今度は魔法を自身の後ろ水面に向かって放ち、その爆発的な推進力を以て竜に向かって飛び出した。 「なにィ!?」  予想外の急接近に竜は一瞬硬直する。  そこへ体勢を整えつつ突撃するログは新たな創造を行う。 「ジェネレート:なんかツエー……エクスカリバー!!」  その構える右手に生まれ出たるは聖剣エクスカリバー。  そのフレーバーテキストにはこう書かれている。  其は古の神秘を宿す魔剣なり(聖剣なのに)。  その刀身は純白の銀色を帯び、細部には古代のルーン文字が複雑に刻まれている。  柄は堅牢な鋼で作られ、中央には鮮やかな宝石が留められている。柄の先端にも煌びやかな王冠が如し装飾が施され、まるで星々を宿しているかのよう輝きを放つ。  その剣は天空に眩い輝きを放ち、ログの心を熱く滾らせ、竜の瞳を眩ませた。 「ぐおおおおっ!!」  堪らず竜は翼を丸め身体を守った。 「おりゃああああっっ!!」  ログもそのままの勢いで剣を振り被る。  そして両者のシルエットは交差した。 「ぐわああああっっ!!」  その咆哮は片翼を失った竜から上がった。  そしてそのまま浮力を失い水面に向かって落下する。 「一撃じゃ無理だったか……だがまだチャンス! 今のうちにもう一撃だっ!!」  擦れ違い後の上昇から反転、竜を追う形でログは剣を構えた。  空気抵抗を減らし、一直線に竜との距離を詰める。  両者が水面に落ちるのが先か、剣の切先が竜の喉元に刺さるのが先かの緊張の一瞬。 「ピイィィィーッ!!」  と叫びながら、突如として両者の間に割って入る影があった。 「っ!?」  ログは慌てて剣を引く。  その影はまだ幼い竜であった。体長はログの半分にも満たず、角の先端も未だ丸みを帯びている。牙も爪も十分に生え揃わず、ドラゴンとしては未熟と言わざるを得ない。  ステータス上は脆弱なログを以てしても脅威となり得ないばかりか、憐憫に剣を引かせる程の矮小な存在ではあったが、その幼い竜は明らかに自らの身体をログの剣に貫かせる覚悟で両者の割って入っていたのだった。 「危ないっ!!」  飛ぶ術を持たないログは衝突は避けられないと悟り、咄嗟に手に持った剣を投げ捨てた。 「ピィッ!?」  ログと幼竜は避けられず激突なるかと思われたが、それは咄嗟に幼竜を抱き抱えたログによって免れた。 「くそっ!!」  ログは幼竜を庇うように身体を丸め、落ちる水面に幼竜を庇うように背を向けた。  そしてそれは共に落ち行く竜に背後を取らせるに等しい。 「あ〜くそ、転生直後にまた死ぬのかよ……」  ログは目を瞑り覚悟を決めた。  水面に落ちる衝撃が先か、竜の爪に引き裂かれるのが先か、それとも炎で焼かれるのか。  あらゆる痛みを想定し構えるログであったが、結果的にそれはいつまで経っても訪れなかった。 「あれ?」  いくら何でも水面への落下は目前であっただろうと恐る恐る目を開いたログであったが、どういう過程を経てか、気付いた時、ログの両足は湖の畔に着いていた。  そしてその上下感の自己認識反転によるバランスの乱れで尻もちをつくログ。 「どうなってんだ……?」 「ピィ?」  ログの腕の中で同じように首を傾げる幼竜。 「ログ様! お怪我は!?」  そこへ心配そうな顔で駆け寄るアイリス。 「怪我は無い……みたいですが、何が起こったのかは全く……」  その言葉を聞いてアイリスは胸を撫で下ろすように一度は安堵の表情を見せた。 「良かった……お怪我が無くて何よりです……しかし……」  そう言ってアイリスが視線を向けた先、そこには片翼を失った竜が湖畔の水辺に身体の半分を沈めて伏していた。 「落下直前のログ様をセラフィウス様が魔法でお運び下さったのです」  竜の赤き血液が止め処なく湖に流れ、水の中に煙となるように溶けて消えてゆく。 「ピィィーッ!!」  幼竜はログの手から擦り抜けるように飛び出し、竜の元へと飛び寄った。そして竜の傷口を涙を流し血塗れになりながら舐め始めた。 「あいつら……やっぱり親子だったのか……」 「どうやらそのようですね……」 「子供が親を守ろうと飛び出し、俺がそれを庇おうとしたから助けてくれたのか……」 「それで間違いは無いかと思います」  ログは少し迷った後、後頭部を掻いた。 「ジェネレート:なんかスゲー完全回復薬、とか言ってみたり……」 「!! 流石はログ様! その御心の寛大さ、まさに王の如しです」  アイリスは嬉しそうに胸の前で両手を結んだ。 「だから王様じゃないって……」  ログは困りながらも生み出した完全回復薬を持って竜と幼竜に近付いた。 「ピィッ!! ピィィーッ!!」  するとログを親に近付けまいと幼竜が竜の傷口を舐めるのを止め、立ちはだかった。  幼竜は懸命に鳴き声を上げログを威嚇していたが、その姿は小刻みに震え、しかしそれでもなお生命を賭して竜を守ろうとする気概があった。 「悪いな、早くこれを飲ませてやらないと……」  ログは構わず幼竜を手で退けて竜の口元へ完全回復薬を差し出した。 「痛っ!!」  幼竜はそのログの腕に噛み付いた。その目には怒りと憎しみを宿している。 「お前な……このラストエリクサー症候群のこの俺がレア薬をやろうと言うんだぞ?」  ログはそう言いながら残る手で幼竜の頭を優しく撫で、微笑みをかけた。 「ピィ……?」  敵意の無さを感じとった幼竜は徐々にログの腕を噛む力を緩め、やがてゆっくりとその小さな牙を離した。  そして心配そうな顔持ちで成り行きを見守ろうと身体を畳んでログと竜の様子を見ていた。 「悪かったな……それと、俺を助けてくれてありがとう」  ログは薬の入ったビンの栓を抜き、倒れた竜の口元にそれを流し込んだ。 「これで効くのかは解らないけど……」  そうも言っている内に竜の傷口は完全に塞がったばかりか、その身体の内側から隆起するように忽ち肉が盛り上がり、それは元と同じように竜の翼を再生させた。 「すご、本当に治った」 「ピィィーッ! ピィィーッ!」  驚くログと、嬉しそうに竜の周りを飛び回る幼竜。 「流石はログ様、感服致しました」  アイリスも少し離れた位置から安堵の表情で柔らかな微笑みをたたえていた。 「ピィ! ピィ!」  喜び余ってか幼竜は自身が噛み付いて出来たログの腕の傷を舐め始めた。 「あはっ、くすぐったいな、お前」  ログはそんな幼竜の頭を優しく撫でながら倒れた竜に視線を戻した。 「ぐ、ぬ……これは……お主のお陰か……?」  傷の癒えた竜はゆっくりとその首を持ち上げた。 「ま、最初から無理に敵対するつもりは無かったんだ……昨日の敵は今日の友ってことで、どうか一つ」  ログは照れくさそうに視線を逸らし後頭部を掻きながら言った。 「ふむ……流石にこうまでされては疑い続けるのも憚られるか……」  竜も已む無しとため息を1つ吐いてからゆっくりと身体を起こしつつ言った。 「セラフィウス様!」  アイリスは竜の言葉を聞いて嬉しそうに胸元で両手を結んだ。 「さて……では話を元に戻すとするか。お主の話は俄には信じられぬものではあるが……我も少し頭を冷やしてお主の言葉を聞こうと思う」  そう言って竜は水辺から出て湖畔にその大きな体躯を丸めて落ち着いた。 「……友として、もう一度お主の話を聞かせてはくれまいか」  竜は穏やかな表情をログに向けた。
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