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王城の研究者プロトコール
王城の内部はエントランスからきらびやかな装飾が施されており、まるで宝石が散りばめられたような輝きが広がっていた。
壁には美しい彫刻が施され、天井からは煌めくクリスタルのシャンデリアが優雅に吊り下げられている。
「ほえー……ピッカピカだなー……」
広大なホールでは豪華な絨毯が敷かれ、その上を歩くログ達の足音は静寂の中に消えて行った。
「天井も高っけぇ……」
高い天井からは柔らかな光が差し込み、ログを優雅な雰囲気に包み込む。
壁に掛けられた絵画は風景や歴史的な場面を描いており、それらはまるで生命を吹き込まれたかのように鮮やかな色彩と繊細なタッチで描かれていた。
「芸術とかまるで解らない俺でも何か凄そうな絵や壺なのは伝わってくるなー」
ログは恐る恐る手を伸ばしてみる。
「ログ様? 無闇に美術品に手を触れてはいけませんよ?」
そこへ廊下の先を案内するアイリスが急に振り返って窘めものだからログは忽ち竦み上がるように身体を震わす。
「えぁっ!?」
パリンッ! と音を立てて割れる壺。
「「あ……」」
「ピィィ……」
ログが壺だった物が置いてあった空間に手を伸ばし、その先の床に割れて散らばる破片があるという決定的な瞬間。
それはまるで王城に飾られた美術品のように、在り在りと事実を切り取った絵画のようだった。
「ジェ、ジェネレート:なんか同じ壺……」
パァァァ、っと輝きを放ちながら元あった場所に元あったように生成される美術品の壺。
「ログ様?」
「ハッハイ! ごめんなさい! 以後なるべく権限は使いませんっ!」
「もう……」
アイリスは困ったように膨れながらまた前を向いて廊下を歩き出した。
ログは割れて砕けた壺を見ながら、後ろ髪を引かれる思いでアイリスの後を追った。
ログが立ち去った後の台座には唯一無二の美術品が存在しながら、そのすぐ下にはそれが割れているという不思議な光景が出来上がっていた。
後に芸術に造詣の深い城の者は語った。
「いい……実にシュールだ……」
何とも言えない切なさが残る光景として、そのまま暫く場所ごと保存されることとなった。
ログは相変わらず田舎者丸出しで周囲をキョロキョロと忙しなく見渡しながらアイリスの後をついて歩いていた。
「実際に歩いてみると結構お城って広いんですね」
「そうですか? 慣れてしまえばそうでもありませんが……」
「緊張してるからかな、俺」
「ふふ、そんな風には見えませんよ?」
アイリスは柔らかな物腰で笑っていたが、ログは確かに慣れない高級感のある雰囲気に緊張していた。
更に廊下を進むログ達を前にして、向かいから歩いて来た守衛達が脇に退いた。しかし彼らはそれでも堂々とした態度で、豪華な鎧を身にまとい威厳を持っていた。
ログは見るもの全てに恐縮する思いを抱きながらも、その美しさと威厳に胸を躍らせていた。
「兵士1人ひとりを見てもカッコ良いもんなー」
「彼等にも是非お声掛け下さい。それを兵達が聞けば喜ぶことでしょう」
「訓練でもつけて貰えますかね? 俺、レベル1とか弱っちいし」
「そうですね。それでは後程、兵達の訓練所も案内いたします」
「ありがとうございます」
そんな風に談笑しながら歩いていると、
「アイリス殿! アイリス殿!」
と、ログ達の背後から慌てた様子で駆け寄って来る者があった。
「あらプロトコールさん。今まさに探しておりました」
その声に振り返ったアイリスが言った。
その者は学者の風格を纏った男性だった。
彼の名はプロトコール・ヴェインハート。
余程急いで駆けて来たのか息も絶え絶え肩が浮き沈みしていた。
彼は若くあるが額に深いしわを寄せ、知識に対する飽くなき渇望がその瞳に宿っていた。
背はやや高く猫背気味で、銀髪は知識の重さによって早くも白く染まっている。
その身に纏う服は華麗ながらも控えめな色調であり、彼の学者としての品格を際立たせている。緑のローブに金の縁取りの細やかな装飾が施され、胸元には栄誉の褒章としての宝石が輝き、彼の知識の深さを象徴していた。
「何をノンビリと仰るのです。王は。王はどちらへ?」
プロトコールは慌てた様子で言った。
「ヴァレリオス様でしたら、旅に出られたそうです」
アイリスはすました顔で淡々と答える。
「ご冗談を。それで王は?」
「ですから、旅へ」
笑顔で答えるアイリス、首を傾げるプロトコール。
「ええと……。状況から察するに、王はお姿ごとイメチェンされたと言うのですね?」
プロトコールはログを見た。
「そうですね、私と全く同じ反応です」
「??? 一体、どういう状況なのです?」
「では、まずは何処か人目につかない所へ。詳しく説明いたしますので」
「それでしたら是非、我が研究室へお越し下さい」
「まぁそれは。……ログ様も少しお時間よろしいですか?」
「はぁ」
ログは2人の会話について行けずにただ頷いた。
「どうするソラリス。王城で何か起きているとは聞いていたけど、何が何やらサッパリだな」
「ピィピピィ……」
蚊帳の外で繰り広げられる会話の殆どを聞き流しながらログはただ2人の後をついて歩いた。
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