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プロローグ
「梛、デザートは」
「ん?ううん、今日向こうのスーパー感謝デーだから、後で桃買うからいいよ」
「……そうか」
やぁね、鷲がヒヨコにでもなったかね。
長年の不眠と、目の痛くなるようなヘビースモーカーを卒業した幼馴染、新鷲 匡生が目の前でイチャついている。
俺はカウンターの隅でダクトに向かって煙を吐きながらそれをぼんやり眺めていた。
触れれば切れそうな時代を知っている自分からすれば、いまどこぞのアイドルかと思う程の可愛らしい青年から目を離さず、やたら世話を焼きたがる幼馴染は衝撃の代物だった。
(うっすい表情が変わらないだけに、気持ち悪…)
でもまぁ、良かったのだろう。
彼の妹は、早くにこの世を去った。
当時の事を思えば、多少の事は許せてしまうくらいにはこの男は苦しんできたから。
彼が抱えてきた物に比べれば、自分が引き摺って来た気持ちなんて軽いものだ。
……とはいえ、家でやれや。
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