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「そう……ですね、俺としては……あの二人を引き離したいわけではないんです」
「あら、そうなの?」
意外、と言う顔をして真知子さんが小首を傾げた。
「ええ、あの二人がこの先付き合おうと、別れようとどうでもいいんです。ただ、このまま護られ続けるのが気に食わない」
多分俺も、黒い顔をしている。
その自覚がありながら、目を伏せた。
どうする。
何が一番堪える?
「……」
自分の幸せを追い求めたのは、タマに出会ってからで。
そのかわり、他人の不幸も願っちゃ来なかった。
「……難しいですね、何が正解か」
部屋の中に静寂が訪れて、全員がそれぞれ頭の中で考えていた。
「……ひとつ、いいですか」
俺の横で黙っていたタマが小さな声を出した。
「ん、何」
暗い雰囲気なんて感じさせたくないのに、俺の意地に付き合わせているのかもしれない。
ごめんの気持ちを込めてタマと目を合わせた。
タマは俺の目を見て、それでも柔らかく微笑んだ。
「……もし、あの人達を深く追い込んで、ココさんや家族が傷つけられたりしないか、私はそれが心配です」
追い詰められて、何かされないかとタマはそれを心配していた。
「……タマ、俺は大丈夫だ。でもそうだよな、心配するよな?ごめん」
親父さんや真知子さんのがいなけりゃ、抱き締めてやりたい気持ちを抑えて背中を撫ぜる。
耐えてきたタマは、自分にされた事への怒りより……大切な人の心配をする。
「でも、私ココさんの気持ちもちゃんと分かってます、ほんとに」
そして、俺の気持ちを踏みにじっているかもと心配する。
「わかってる、俺もタマの気持ちを理解できる」
タマは俺の指先に触れて、小さな手できゅ、と握り閉めた。
「あの、これは私の気持ちなんですけど」
「うん」
言ってもいいのか、まだ迷う瞳が揺れて考えている。
それを迷わせているのは俺だ。
タマが心のままに話せる男で居たいのに。
「うん、タマはどうしたい?」
こく、と喉を上下させたタマが口を開いた。
「あの人達には、もう会いたくないです…私と、ココさんの前に二度と現れて欲しくない」
「うん」
そうだな、と握りあった指先を撫ぜて。
俺はタマの言葉の続きを待った。
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