離婚

3/5
前へ
/115ページ
次へ
「そう……ですね、俺としては……あの二人を引き離したいわけではないんです」 「あら、そうなの?」 意外、と言う顔をして真知子さんが小首を傾げた。 「ええ、あの二人がこの先付き合おうと、別れようとどうでもいいんです。ただ、このまま護られ続けるのが気に食わない」 多分俺も、黒い顔をしている。 その自覚がありながら、目を伏せた。 どうする。 何が一番堪える? 「……」 自分の幸せを追い求めたのは、タマに出会ってからで。 そのかわり、他人の不幸も願っちゃ来なかった。 「……難しいですね、何が正解か」 部屋の中に静寂が訪れて、全員がそれぞれ頭の中で考えていた。 「……ひとつ、いいですか」 俺の横で黙っていたタマが小さな声を出した。 「ん、何」 暗い雰囲気なんて感じさせたくないのに、俺の意地に付き合わせているのかもしれない。 ごめんの気持ちを込めてタマと目を合わせた。 タマは俺の目を見て、それでも柔らかく微笑んだ。 「……もし、あの人達を深く追い込んで、ココさんや家族が傷つけられたりしないか、私はそれが心配です」 追い詰められて、何かされないかとタマはそれを心配していた。 「……タマ、俺は大丈夫だ。でもそうだよな、心配するよな?ごめん」 親父さんや真知子さんのがいなけりゃ、抱き締めてやりたい気持ちを抑えて背中を撫ぜる。 耐えてきたタマは、自分にされた事への怒りより……大切な人の心配をする。 「でも、私ココさんの気持ちもちゃんと分かってます、ほんとに」 そして、俺の気持ちを踏みにじっているかもと心配する。 「わかってる、俺もタマの気持ちを理解できる」 タマは俺の指先に触れて、小さな手できゅ、と握り閉めた。 「あの、これは私の気持ちなんですけど」 「うん」 言ってもいいのか、まだ迷う瞳が揺れて考えている。 それを迷わせているのは俺だ。 タマが心のままに話せる男で居たいのに。 「うん、タマはどうしたい?」 こく、と喉を上下させたタマが口を開いた。 「あの人達には、もう会いたくないです…私と、ココさんの前に二度と現れて欲しくない」 「うん」 そうだな、と握りあった指先を撫ぜて。 俺はタマの言葉の続きを待った。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1194人が本棚に入れています
本棚に追加