離婚

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帰りは一駅手前で降りて、タマと手を繋いで歩いた。 「ココさん、気疲れしたでしょう?ありがとうございました」 「んなことねぇよ、親父さん流石の貫禄だったな」 下町の商店街のアーケード。 夕方が近いせいか、あちこちで揚げ物の匂いがする。 「……旅行、行くか?」 「え?」 「いや、本当に行くのもありかなって。店を再開したらなかなかそんな事出来ねぇだろ?」 きら、とタマの目が輝いて、でもはっとして。 「でも、いいんですか?お店、早めに開けてもいいんですよ?」 「んー、行ったろ?タマとのんびりするって。それに、場所を変えれば何か考えつくかも知れないだろ」 本当はそれは二の次で、タマとどこか遠出したいだけだ。 タマが誰の視線も気にしないところで、二人でのんびりしたい。 思えば出会った頃から、タマは俺と二人で居る所を誰かに見られる事を良しとしない環境だった。 「どこがいい?……ああ、雑誌買って行こうぜ」 小さな本屋、雑誌を広げて行先を決める所からが旅行の楽しみだ。 キラキラした目で、タマは雑誌を眺めた。 驚いたことに、タマは泊まりがけの旅行をした事が無かった。 学生時代の修学旅行をはぶけば、本当に一度も無いと言う。 俺も似たようなもんだが、親父さんの仕事を考えればそれも仕方ないのかもしれない。 「……行くかって聞かれた事はあったんですけど、私、少し遠慮してしまって」 家族になったとはいえ、兄貴とは違う。 本当の両親ではない二人にどこまで甘えていいのか、タマは迷ったんだろう。 「ふぅん……じゃあ、二人で好きな事しようぜ」 温泉に入って、上げ膳据え膳でさ。 どこがいい? タマは嬉しそうに長い時間雑誌とにらめっこしていた。 良いだけ見つめて頷いて顔を上げたから、てっきり目星がついたのかと思った俺に、 「満足しました!」 「あ、何?」 「行った気になりましたー」 「アホか、一歩も動いてねぇわ」 くすくす笑いながら、俺の首筋に腕をまわしてタマが抱きついてくる。 「三日」 「ん?」 「明日、いっぱい作り置きして、三日ここから出ないでこうしてたい」 意味が分からずに、俺は腕の中のタマの顔をのぞきこんだ。 「それじゃ今までと変わらないだろ?」 タマは穏やかに微笑んでいた。
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