おこもり旅行

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布団まで用意されて、俺とタマはまた窓辺に座って夜空を見上げた。 軽く酔ったタマは、俺の胸に背中を預けて寄りかかり満足気に微笑んでいる。 「綺麗ですね」 「ああ、向こうじゃ見られないな」 いつもより体温の高いタマを緩く腕に囲って、寝るまでの時間を楽しむ。 「……初めてココさんにあった日、私びっくりしたんですよ」 「ああ、オネェ?」 「ふふっ、それもありましたけど」 思い出してるのか、覗き込んだタマは目を伏せて微笑んでいて。 部屋の隅の淡い照明に照らされたその顔が、やけに綺麗で、俺はその表情に見惚れた。 「ココさん、私が見た男の人の中で一番綺麗で……なのに、全然それを意識してないじゃないですか」 「意識?」 「ほら、俺かっこいいだろ?って顔してないから」 「しねぇよ、おっさんだし……何より俺より整った奴なんて腐るほどいる」 タマは緩く首を振って、俺の肌の質感を確かめてるみたいなやわい力で俺の頬に触れた。 「いませんよ、こんなに綺麗で、カッコよくて、男らしい人……他に居ない。私の王子様です」 「……アホか」 正直若い頃はチヤホヤされてきたし、容姿を褒められる事には慣れてた。 それを盾に食ってた時代もある。 でも、痒くなる様なその褒め言葉に……照れた。 「本当ですよ?気が気じゃないんだから」 他の人に取られないように、頑張らなきゃ。 タマは冗談めかしてそう囁いた。 少し拗ねた様な上目遣いが、シラフの時のタマからは想像もつかないほど女で。 俺は急激に込み上げた欲情に苦笑いした。 俺の足の間で横座りして、少しはだけた浴衣の裾。 そこに手のひらを這わせたのは無意識で。 「俺が、他の女に目移りするなんて事あるわけねぇだろ……」 這い上がる俺の手にタマはふるりと震えて、熱の篭った吐息を漏らした。 「窓……」 「見えねぇよ、外なんもねぇだろ」 「……っ、んっ、」 普段とはかけ離れた場所で、そのまま畳にタマを組み敷いて愛した。 帯を解いて合わせ目を解いただけの浴衣の上で、さっき食べた特別な料理よりずっと心を満たしてくれるタマを抱いた。 安心しきって、溶けて震えるタマ。 俺の、堪えきれない呻き。 その静かな夜と星空を、俺はこの先ずっと死ぬまで鮮明に覚えていられるだろうと思った。
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