仕返し

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仕返し

「食えよ、聞こえなかったか?」 「あの……?」 旦那の半歩後ろ、左側でさもパートナーだと言う雰囲気でいる柴田が怪訝な表情を隠しもせずに俺に問いかけた。 「お前には言ってねぇ、旦那に言ってんだ。……あぁ、でも諸共(・・)だって言うなら、お前が食うのも許そうか?」 旦那は腰を下ろして、フォークを手に取った。 「鶏もものケチャップソテー……冷えても食える」 旦那には、俺の言う意味が分かっているのか黙って食べ出した。 「これを全てですか?」 まだ柴田は納得のいかない顔をして、俺を見ている。 「まだ作れる、でも一週間分で我慢してやる」 「はい?」 「いいから」 食い下がろうとした柴田を、旦那がとめた。 黙々と口に入れる。 柴田は何故という雰囲気を消さないまま、それでも旦那の加勢をする為にフォークを持ち上げる。 「腹に溜まるだろうから、作らずにおいてやったスープだけでも五種類、サラダで……四種、アイツは覚えた」 俺はカウンターの内側で丸椅子に座って足を組んで、食事中のヤツらに配慮もせず煙草に火をつけた。 「料理ってのはな、味付けより前に下ごしらえがある。ものによっちゃ前日から仕込む」 どれだけの気持ちと努力を無下にしたか、お前らに分かるか。 「ニンニク、唐辛子、牛肉……タマがあまり得意じゃないの知ってるか?」 旦那は一瞬咀嚼を止めて、また黙々と口を動かしている。 「アンタがタマの食の趣向を知らないように、タマもアンタが何を好むか知らなかった……だから使ってんだろ?」 肉、魚、野菜、それを出来るだけ満遍なく。 「……アンタが食わないもんを、諦めずにずっと、アイツは心を込めて作った。教えた俺に申し訳ないと思いながらそれを食ってた」 柴田も俺の言わんとした事が、今食わせている意味がわかったんだろう。 俯いて黙って口を動かし出した。
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