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途中一度、水を飲んだタイミングで柴田はゲロった。
立ち上がるのも辛いだろう顔をして、何とか皿を全て空にした二人に、俺は頷いた。
「……出てけ、千奈の前から消えろ。……どこかで千奈を見かけたら、隠れるのはお前らだ」
二人が席を立つのに続いて、俺は二人が座っていた椅子を二脚抱えて店を出た。
「千奈の口から、お前らに何かされたと聞いたら、俺はどんな手を使ってもそれ相当の対処をする、覚えとけ」
持って出た椅子をそのままごみ捨て場に放り投げた。
「それでは永遠にごきげんよう、お幸せに」
ただ男を愛しただけ。
その恋愛が世間に馴染めずに苦しんだだけ。
こいつら二人も悩んだだろう。
それでも必死に二人でいる事に誠実だったなら。
匡生と梛のように、二人で居る事を選んでいたなら。
俺はこいつらが嫌いじゃなかったろうし、非難する気持ちなんて一ミリも持たずにいた。
人を踏み台にする人間。
千奈を傷つけて尚、まだ逃げるこいつらを俺は一生忘れずにいるだろう。
それでも、千奈が望むなら二度と口には出さない。
俺が生きていく場所は千奈の横で、結局奴らを改心させることも、痛めつける事も出来なかった俺が出来るのは忘れたふりで千奈を愛する事だ。
……悲しみを上書きして、幸せにする事だから。
お綺麗なスーツに不釣り合いなゴミ袋を下げて、二人が俺に背を向けて歩いていくのを、俺は黙って見送った。
「おかえりなさいっ」
自分の力不足を嘆きながら、玄関のドアを開けた。
千奈はスリッパを鳴らしてかけて来た。
「ただいま、千奈」
「……ふふ、おかえりなさい心さん」
柔らかな笑顔にホッとして。
心の中でごめんと謝った。
「……ご飯作ったんです、今日はクリームパスタ。心さんのにちょっと近くなったんですよ?」
出来もしない復讐を、何度も心の中で繰り返すより。
タマの作った飯を感謝して食う。
タマが笑った顔に、同じだけの笑顔を。
タマを救いたいと願ったヒーローにはなれなかったけど。
ヤツらに食わせた飯に、燻る怒りを捨ててきた。
これからは、結局負けたんだろう自分を捨ててタマだけ見て生きる。
短い人生の残り全部、余計なもんは捨ててタマを愛して。
俺とタマは幸せになる。
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