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あの男の事だ。
俺が店を出したことも。
もしかしらマンションの部屋も調べてあるかもしれない。
このままノープランで連れて帰って大丈夫か。
腹に感じるタマの腕の感触を嬉しく思いながら、俺は考えを巡らせていた。
丸く収まる手立てを思いつけないなら、多少痛くても正面からぶつかるしかない。
マンションでも店でもなく、俺はバイクを走らせて一番近いビジネスホテルを目指した。
エンジンを切ると、タマが不思議そうな顔で俺を見上げた。
「部屋で飯でも食おうぜ、賄いがイマイチだったんだ」
タマの手を引いてツインの部屋を取った。
俺の手をきゅっと握って、黙って着いてくる。
「ここの飯、美味いかな?」
これから向かい合う事に頭と心を持ってかれない様に、俺はエレベーターの中でタマに話しかけた。
「ココさんのご飯より、美味しくは無いですよ」
それを受け止めて、タマも小さく笑う。
触れられる距離でタマが笑ってくれる。
それだけで指先まで痺れるくらい心が振動している気がする。
部屋に入ってタマのデカいリュックを下ろしたら、静かな部屋に二人きり。
「びっくりしたろ、急で悪かった」
少し痩せたタマが俺を見上げて微笑んで首を振った。
「毎日……逢いたくて、ずっと…私ココさんの事ばっかり」
話しをして、これからどうするのか決めるつもりだった。
旦那にもタマの家族にも、タマがあの家を離れる事は知らせておくべきだ。
じゃなきゃ誘拐と言われても文句は言えない。
だけど。
タマは子供じゃないから。
数時間その連絡が遅れても構わないよな。
だって、仕方ないだろ?
同じ様に毎日、それこそキリがないほど何度も。
タマの事ばかり考えてたんだ。
そのタマが目の前に居て、俺と同じ気持ちで居てくれたって笑うんだから。
不貞で結構。
どうせ数時間後には諸共そうなる。
堪え性がない男だって事は、もう自分で分かってるから。
この重ねて押し潰されて、熟成されたもんを解放させてくれ。
俺は自分の気持ちに逆らわずに手を伸ばした。
タマの腰に触れて抱え上げた。
「タマ……千奈、お前を抱きたい、抱かせて」
そのまま空いた方のベッドに押し倒して服をはぎ取りたい本能を、細い理性で繋ぎ止めてタマの目を見つめた。
タマは頬を薄く染めて頷いてくれた。
二人でもつれて倒れ込んだベッドの上。
味わいたくて近づけた唇が触れる寸前に、タマが囁いた。
「ほんとは、ずっとキスして欲しかったの」
ああ、やばい。
箍が外れる。
そう思った俺の首筋に、タマのしなやかな腕が回り……俺は引き寄せられるままに、その唇に食らいついた。
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