2. 同期の姫

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2. 同期の姫

(そうだ、戻る前に何か飲み物でも買おう) 私はリフレッシュルームの出入り口近くにある自動販売機の前で立ち止まった。 どれにしよう?お茶はマイボトルで持ってきてるし、ミルクティーは飲み切れないかな。残業といえばエナジードリンク…さすがにやりすぎ?でも、このもやもやした感じをスッキリさせたい。。 いつもはあまり悩まないのに、今日はなかなか決められない。 あ、炭酸にしようかな。 あんまり甘すぎないのは――― よし、炭酸レモンにしよう。 ようやく決めて、私はいつものように電子マネーで買おうとジャケットのポケットに手を入れたとき、ICカードの入ったパスケースが無いことに気がついた。 (あれ?何でないんだろう?) 午前中の社外でも打ち合わせに行った時は持っていたはず。 どうしよう、どこかで落とした? ICカードは定期券として買っていたから、一瞬この後どうやって帰ろうと焦って、財布があるからたぶん大丈夫だろうと思い直す。給料日前でそんなに手持ちはないけれど、片道の電車代くらいは入っている。 けれど、最近それなりの金額をチャージをしたばかりだったから、失くしたダメージは大きい。 ああ、なんだか今日はツイてない日かも―――― 「早瀬、独り言多すぎ」 「ぅわあっ!!」 不意に背後から声を掛けられて、私は反射的に声を上げてしまった。 「あ、、(ひめ)……?」 見上げると、そこに立っていたのは、同じ4年目の同期だった。 名前は姫元樹(ひめもといつき)。 私は『姫』と呼んでいる。 私が出した大声にも特に驚いていないのか、長い前髪の間から見える表情は普段と変わらない。 「私、そんなに声に出てた?」 「ああ、ずっと小声でブツブツと」 やってしまった。 電話しているわけでもなく、自販機を見つめながらずーっと独り言を言っているとか怪しすぎる。 もうオフィスにほとんど人がいない時間でよかった。
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