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「どうしたの、何か気になるところあった?」
「この案件、うちじゃ絶対取れないですよね?」
さすが、勘が鋭い。
倫花ちゃんは、その可愛らしい見た目からほんわかしたゆるふわ系といった印象を持ってしまうのだけれど、バリバリの理系畑出身で頭の切れる後輩だ。
ミーティングでも核心をつく発言や、まったく違う着眼点からの意見を出してくれたりと、ハッとさせられることが多い。
開発部にいる3年目の中で、将来のエース候補筆頭は彼女なのではないかと私は思っている。
デリケートな内容なので周囲にあまり人がいないことを確認してから、私は倫花ちゃんを小声でも届く距離まで手招きで呼び寄せた。
「9割方、厳しいだろうね」
これは小規模でスケジュールがタイトな上に予算も渋い、いわくつきの案件だった。開発部も本気で取りに行くつもりはなく、顧客側も単価の高いうちの会社に頼む気はないだろう。
ただ厄介なのは、『別案件では互いに重要顧客』であるということ。
RFPを受け取れば、たとえ最終的に失注することが目に見えていても、提案資料を作成しないわけにはいかない。
「あー、やっぱりそうですよね。結合テストもこの金額じゃ全然工数取れなさそうですし」
「これは私の想像だけど、最終的にはどこのベンダーも取れなくて、自社のシステム部門でやるつもりなんだと思う。社内の予算取りの根拠に使われるんじゃないかな」
「うわー、もうそれ見積書とか作る意味ありますー?」
倫花ちゃんはぷくっと頬を膨らませて不満を隠さない。先ほどまでとは一転して子どもっぽいむくれた表情に、私は苦笑いをする。
けれど無理もないことだと思う。
誰だって無理だとわかっている提案資料を作らされて、いい気分はしない。
「でもね、このお客さんだと基幹システム全体を体系的に知ることができるし、一通りの提案資料作成の勉強にもなると思うんだ。
この経験は今後に必ず活きるはずだし、倫花ちゃんにはこれから新規案件にも携わってほしいから、頑張ってみてほしい」
私たちがいる開発部のメイン業務は、客先に導入したシステムの運用保守や、システムの仕様変更対応。
その他には、営業部と一緒におこなう新規案件の提案。受注できたら、保守と新規開発を掛け持ちしたり、大型案件なら1~2年ほど開発プロジェクトに携わることもある。
いずれは倫花ちゃんにも新規プロジェクトをやってもらいたい。この仕事が意味がないものではなく、そのステップになればと思っている。
「わーん、早瀬先輩にそう言われたらやるしかないじゃないですかー」
ガバッと倫花ちゃんに抱きつかれて、私は座っている椅子でバランスを崩しそうになった。
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