3. すれ違う気持ち

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静まり返るエレベーター内。 普段だったらあまり気にならないのに、なぜか今日はこの沈黙が居心地悪い。何か話題を、と頭の中でフル回転させる。 「あ、そうだ。来月のS製薬プロジェクトのキックオフ飲み会、参加する?まだ出欠表が空欄だったけど」 ちょうどいい話題を見つけて、私は話しかける。後でメールで聞いてもいいんだけれど、そろそろ人数を確定したいのでちょうどよかった。 「…忘れてた。あれって早瀬が幹事だったっけ?」 「ううん、本当は営業の獅堂(しどう)さんなんだけど、今忙しいみたいで代わりにって頼まれたの」 「どうだか。あの人忙しいフリするのだけは上手いから」 「それは、、私はノーコメントで」 と言いつつ、姫の指摘を強く否定することもできない。 獅堂さんは私たちより2つ上の6年目なのだけれど、ザ・営業マンという感じの軽いノリと調子の良さが目立つのも事実だからだ。 「私は出欠確認と会費集め、あとは確定人数をコンサルの宇多川(うだがわ)さんに連絡するだけなんだ。お店を決めてくれてるのも宇多川さんなの。いろいろお店も詳しいみたい。で、姫はどうする?」 「……じゃあ、参加で」 「参加ね!当日はなるべく遅れないようによろしくね、いろいろ忙しいとは思うけど」 「了解」 その時ちょうどエレベーターが1階に着き、ドアが開く。 1階のロビーは多くの人が行き交っていて、エレベーター内の静かさと打って変わってざわめきが少し騒々しい。 「姫はコンビニで何買うの?」 「眠気覚ましになりそうなもの。ちょうどタブレット切らした」 (眠気覚ましか、、それならガムとかチョコレート…) そんなことを考えながら歩いてた時―――― 「あ、早瀬さん!」 オフィスビルのエントランスを歩いていると、突然呼び止められる声が聞こえた。 咄嗟に声の主を探そうとするも、エントランスは多くの人が行き来していて、なかなか見つけることができない。 「早瀬さん、こっちです」 「宇多川さん!?」 後ろから肩をポンっと叩かれて振り向くと、そこに立っていたのは取引先の宇多川修平さんだった。
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