3. すれ違う気持ち

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宇多川さんはITコンサルティング会社の営業で、来月から本格的に始まるS製薬案件で、うちの会社とS製薬の橋渡しをしてくれた人でもある。 今まさにエレベーターでS製薬案件の話をしていたところだったので、その本人と出くわして驚いてしまう。 「姫元さんも、お久しぶりです。先週のお打ち合わせ以来ですね」 「どうも」 姫は一瞬驚いた表情をするも、すぐにいつもの無表情に戻って軽く会釈をする。宇多川さんはそんな姫の態度に機嫌を損ねる様子もなく、人の良さそうな笑顔を崩さない。 「恵比寿周辺はたまに来るんですけど、こちらのオフィスビルを訪問するのは初めてで。こんなに大きなビルだったんですね、いやぁ我が社とは大違いで迷子になるかと思いました」 「確かに大きいですよね。とは言っても、うちのオフィスが入っているのは6階から10階までですけど。あの宇多川さん、今日はどうされたんですか?」 私が知る限りでは打ち合わせなどの予定はなかったはずだ。それともまた別の案件で予定が入っているのだろうか? 「すみません、肝心なことを忘れるところでした。これなんですけど、早瀬さんのものですよね?」 そう言って宇多川さんが手に持っていた鞄から取り出したのは、見覚えのあるベージュのパスケースだった。 (失くしたと思っていたパスケース…!) 「はい、そうです私のです!先週失くしてしまって、、」 あの後、タクシー会社やランチを食べた定食屋さんに連絡をしたり、念のために会社近くの交番に聞きに行ってみたものの、結局見つかることはなかった。 定期券は最悪買い直せばいいと思っていたけれど、このパスケースは就職祝いに母がプレゼントしてくれたものだったので、どうしても諦められなかったのだ。それが見つかった…! 「すみません、実は持ち主を確かめるために中身を見てしまいました。そうしたら定期券に早瀬さんのお名前があったので」 申し訳なさそうに話す宇多川さんに、私は思わずかぶりを振る。 「いえ、いいんです。ありがとうございます。もしかしてこれを届けるためにわざわざ?」 「はい、今日はたまたまこの辺りで別件の仕事があったもので、寄るのにちょうどいいかと思ったんです。今度キックオフ飲み会でお会いしますけどまだ先ですし、渡すなら早い方がいいかと思いまして」
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