3. すれ違う気持ち

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「…このパスケースはどこで?」 突然、それまで黙っていた姫が口を開いた。 「弊社の会議室です。先週の水曜日にS製薬さんを交えた打ち合わせがありましたよね?あの打ち合わせの後に会議室を使用した弊社の社員が見つけて、総務部に届けたようなんです。 後日総務の担当者から、前の時間帯に会議室を利用していた私のところに連絡が来たんですよ」 そうだ、思い出した。 あの日はたまたま会議室の空調が故障していたらしく、部屋の中がひどく蒸し暑かった。 普段なら客先でジャケットは着たままなのだけれど、あの時は打ち合わせが長丁場だったこともあり、先方にも勧められてジャケットを脱いだ記憶がある。きっとあの時落としたんだ。 「すみません、私全然気がついてなくて、、」 「いいえ、そんな恐縮しないでください。 早瀬さん、もしよろしければ連絡先を交換しませんか?これからまた仕事でお会いする機会も増えるかと思いますし、お互いの連絡先を知っておいた方がいろいろとスムーズかなと思いまして」 そう言うと、宇多川さんがジャケットの胸ポケットからスマホを取り出した。 「どうします?電話番号…あっ、メッセージアプリの方が便利ですよね?」 宇多川さんが片手でスマホを操作ながら尋ねる。 「え?えーっと、そうですね」 確かにそう言われると、これからやり取りが増えるかもしれないし、連絡先を知っていた方がいいのかもしれない。
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