4. 落花、枝に帰らず

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4. 落花、枝に帰らず

4月下旬の金曜日。もうゴールデンウィークは目前だ。 私はカレンダー通りの休みが取れそうだった。 連休前に仕事をキリがいいところで終わらせるため少し残業が続いていたけれど、それほどハードというわけでもなく、仕事面は充実している。 周りの社員はというと、やはり休み前特有の少し浮足立つ雰囲気に包まれていた。 仕事の合間や休憩時間にも、海外旅行へ行く同僚や、子どもがいる人は家族旅行の計画など、楽しそうな会話があちらこちらから聞こえてくる。 (倫花ちゃんは大学時代の友人たちとタイのリゾートだっけ?確かプール付きのヴィラに泊まるとか。いいなぁ) そんな中で、私は連休のことを考えると重い気持ちになっていた。 とりあえず飛行機のチケットだけでも取ってしまおうかと思ったけれど、もしも駄目だった時のことを想像してやめた。どうしても取れなければ新幹線の自由席に並べばいいし、座れず立つことになってもいい。 倫花ちゃんからもらったアドバイスのようにガツンと言うということはせず、電話での『予定がはっきりしたら』という言葉を信じて、賢吾の方から切り出してくれるのを待っていた。 (ううん、それは違うな) 実際はそんな勇気もなく、あの時のように言い返されて気まずくなるのが嫌で、逃げているだけだ。 賢吾からのメッセージや電話などは何度かあったけれど、以前のような職場の愚痴も無くなった代わりに、時事ネタや最近ハマっている動画などの当たり障りのない話題ばかりになった。私はそれらの話にただ相槌を打って返す。 まるで『その話題』に触れたくないような、意図的に避けているような、そんな気すらしてくる。 (賢吾は私に来てほしくないのかな。会いたくないとか?) 『俺だってゆきのに会いたいと思ってる』 あの言葉は嘘? 何だか気が重い。 彼氏と連絡を取るのに気が重くなるようになるなんて、どうしてだろう。
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