4. 落花、枝に帰らず

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(………え?) 「今の声って、、誰?部屋に誰かいるの?」 「えっ、あー、何?よく聞こえないんだけど」 平静を装っているようだけれど、声が明らかに動揺している。 それに、たった今まで通信はまったくのクリアだったのに、突然聞こえてきたガサガサガサッという音も、ものすごくわざとらしくて不自然だ。 「ごまかさないでっ、今女の人の声がはっきり聞こえたよ。部屋に呼んでいるの?」 「違うって、今ほんとは職場の飲み会に来てるんだよ」 「だってさっきメッセージで『家に帰ってきたところ』って言ってたじゃない」 「だからそれが嘘で、ちょうど帰る間際に誘われてたんだよ。俺が電話で長時間席を抜けてるから、同僚の女の子が気にして呼びに来ただけ」 「でも『賢吾』って呼んでたよ?ただの同僚の人が下の名前で呼ぶの?」 「それは酒の席のおふざけっていうか、ノリだよ」 飲み会なんて嘘。 本人はもっともらしい言い訳だと思っているのかもしれないけれど、私からしてみればおかしなところだらけだった。 私も緊急の用件で、飲み会に参加中の上司に電話をしたことがある。 たとえ席を離れていたとしても、居酒屋特有のガヤガヤとした喧騒や、屋外なら車の音や雑踏など、何かしら音聞こえてくるものだ。でも、そういった外の音は全然聞こえてこない。 だとしたら居酒屋なんかではなく、賢吾の部屋か相手の女性の部屋しか考えられない。
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