7453人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「居酒屋なんて嘘でしょ。もしかしてその女の人の部屋?」
「だから、違うって言ってんだろ」
「……お願いだから、嘘つかないでよ。それとも私なら簡単に騙せるって思ってるの?」
たぶん、というか間違いなく親しい女性がいるのは確実だった。
遠距離恋愛中の浮気。
自分には無縁だと思っていたことが現実になって、ショックな気持ちもある。
でも、それよりも。
辻褄の合わない出まかせを、
平気で淀みなく話す賢吾が怖くなった。
自分が好きになった人はこんな人だったのだろうか。
今まで何も疑わずに全部信じていたけれど、実は気付いていない嘘もあったのかもしれない。
怖い。
楽しく幸せだと思っていた2年間さえも、嘘だったのかもしれないことが。
「さっきの女の人のことが好きなの?」
自分で言っていて、自分の言葉に傷つく。
「いつから?」
黙ってないで、何か言ってよ。
「もしかして、先輩とキャンプっていうのも嘘?その人と旅行に行くの?」
「違えよ、キャンプは本当」
(キャンプ『は』本当、ね……)
それ以外はほとんど嘘だと言っているようなもの。
語るに落ちるとはこのことだ。
でも、もう今さらそのことを指摘する気にもなれなかった。
言ったところで、また嘘の上塗りをされるだけなんだから。
そのあと、どうやって電話を切ったのか、私はよく思い出せなかった。
ただ電話を切ったあと、
(今日が金曜日でよかった、明日を気にしないで思いっきり泣ける)
と思ったことだけは覚えている。
そしてその日以降、賢吾との連絡は途絶えてしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!