7553人が本棚に入れています
本棚に追加
お手洗いを済ませてから、少し風に当たりたくてお店の外に出た。
ちょうど近くに煙草休憩中の男性がいたため、煙が流れてこない場所を見つけて移動し、私は糸が切れたように脱力して壁に寄り掛かる。
「あー、いい風、、」
日中は上着が必要ないくらい暖かくても、夜になると空気が少しひんやりする。それが少し火照った頬にちょうどいい。
「あぁ、ここにいた」
しばらく涼んでいると、背中越しに聞き慣れた声がした。
振り返らなくても分かる。姫だ。
「……おつかれ」
私は目を合わせずに、小さく返事だけをした。
ここに姫が来るのは予想外だった。こういう展開になりたくなくて、今日の飲み会では席も一番遠くを選んでいたのに。
そんな私の葛藤を知る由もない姫は、隣りから少し顔を覗き込むようにしてくる。
「具合悪いのか?」
「ううん、ちょっと酔ったから風に当たりたかっただけ」
私の頭の中では、代官山で偶然見てしまった彼女と買い物デートをしていた姫の様子がちらついた。
居合わせたのはただの偶然だけれど、人のプライベートを勝手に覗き見したみたいで、何となく気まずい。
私は極力目を合わせないように、目の前の通りを歩く通行人の流れを見るともなく眺めていた。
「ビールばっか飲みすぎなんだよ、得意じゃないくせに」
「別に、私が何を飲もうと関係ないじゃない」
「ならもう少し何か食べろ。今日ほぼ飲んでるだけだろ。そんなんだとすぐ酔い回るぞ」
席は一番遠かったはずなのにちゃんと見られていた。
姫は図星だろ、という顔で淡々と指摘する。私のかわいくない発言も態度の悪さもお構いなしだ。
「いま、絶賛傷心中なんだ。だからあんまり食欲ないの」
最初のコメントを投稿しよう!