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ホームに着くと、乗る予定の東京方面内回りの電車が出て行った直後だった。
「はあ、疲れた……」
飲み会は嫌いではないけれど、やはり取引先との飲み会は気心の知れたメンバーとの飲み会とは違って気疲れしてしまう。
ホームの時計を確認すると、もうすぐ21時半。今の時間から帰れば、1時間後の22時半ごろには家に着きそうだ。今日はお風呂に入ってすぐ寝てしまおう。
「早瀬さん、お疲れ様です」
スッと隣に誰かが立った気配がして顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべた宇多川さんが立っていた。てっきり二次会に参加しているものだと思っていたので、この場所で声を掛けられて驚いてしまう。
「お疲れ様です」
「早瀬さんはどちら方向ですか?」
「私は内回りです、中央線乗り換えなので」
「それなら同じ方向ですね。あ、もしかしてここにいるのが意外でしたか?」
たぶん私の考えていたことが顔に出ていたのだろう。私は正直に頷いた。
「S製薬の松崎部長って酒豪というか、本当にザルなんですよ。ここだけの話、僕も以前三次会まで付き合って大変な目に遭いまして。それで今日は一次会で抜けさせてもらおうと。コンサルの営業としては失格ですよね?」
肩をすくめて笑う宇多川さんにつられて、私も笑う。
ザルといえば、姫もそれなりに飲んでいたはずだけど顔色一つ変わっていなかったなと思う。姫は帰宅組にはいなかったから、あのまま二次会に参加したのだろうか。
さぁ、、試してみる?―――――
不意に、あの時の言葉が頭の中で反芻する。
あれは、どういう意味なんだろう。
そんな冗談を言うほど酔っていたとも、そもそもそんなことを冗談で言うタイプとも思えない。
じゃあ、どうして?
この1ヶ月で、何だか自信がなくなっていた。
一切連絡をくれない賢吾のことも、姫のことも。
あんなによく知っていたと思っていたのに、今はよく分からない気がしている。
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