7. 衝動の行方

1/7
前へ
/131ページ
次へ

7. 衝動の行方

そのまま電車は浜松町を過ぎてさらに15分ほど乗ったところで、次降りるから、と促された。駅名標には目黒とある。オフィスのある恵比寿より1つ手前の駅だ。 仕事が残っている、というのはやっぱり姫の作り話だったんだ。じゃあ、いったいどこに行くつもりなんだろう。 普段はめったに利用しない駅なので、私は姫の背中を見失わないように少し後ろを歩いた。 中央改札口を通って東口へと出ると、ロータリーの前で立ち止まった。 「あぁ、そういえば駅ビル改装してんだっけ、、」 姫は頭に手を置いて珍しく少し困ったような顔をして悩んでいる。 「この辺、意外と店ないんだよな……家来る?」 それは、今日の昼はカレーにする?くらいの気軽な提案だった。 重さもなければ下心も感じない。 それがますます、私を混乱させた。 『―――ねぇ賢吾、まだ電話終わらないのー?』 賢吾の部屋にいたであろう、女の人の声を思い出す。今度は自分が、あの女の人のような立場になるなんて、そんなの嫌だ。 自分が傷ついたみたいに、あの時見た綺麗な彼女さんを傷つけたくない。 姫には彼女がいるんじゃないの? それなのに私を誘うの? 姫にとって私は、なに? 次々に生まれる答えの出ない疑問が、霧のようにまとわりついて、私をがんじがらめにする。 そしてついに、溢れだした。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7553人が本棚に入れています
本棚に追加