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「早瀬、、泣いてる?」
気付けば視界が涙で滲んでいた。
「姫のせいでしょっ、どういうつもりで言ったのか知らないけど、あ、あんな綺麗な彼女がいるのに、姫がそういう人だと思わなかった!」
なんでこんなに涙が出るのか分からない。
塞がったと思っていた1ヶ月前の傷が抉られたからなのか、同期の中では仲がいいと思っていた姫から『そういう扱いをしていい存在』だと思われたことが悲しいのか。
「彼女?ちょっと待て、何の話?」
「隠さなくてもいいよ、偶然見ちゃったの。ゴールデンウィークに一緒に買い物していたの、彼女さんでしょう?」
「ゴールデンウィーク…?あぁ、あれ見られてたのか、、」
やっぱり見間違いじゃなかったんだ。
姫は額に手を当てて、はあ、とため息をついた。
「あの人は、彼女じゃない」
――――え?
だって、二人でお買い物して、あんなに仲良さそうに笑って、腕組んで歩いてたのに?
私が二の句を継げないでいると、姫が口を開いた。
「あの人は透子さんっていって、兄貴の彼女。なんであの日一緒にいたかっていうと―――
なぁ……とりあえずここから移動しないか?」
そう言われて周囲に目を向けると、駅前を歩く人たちにあからさまにじろじろと見られている気がする。
確かに、駅前で急に泣き出したり喚いたりしていたら、傍から見れば痴話喧嘩だと誤解されていてもおかしくない。ふと我に返ると、自分の置かれている状況が途端に恥ずかしくなってきた。
「いろいろ誤解されてそうな気がするから、ちゃんと説明させて」
「あのさ、そもそも私、なんでここにいるんだっけ?」
「それも含めて、ちゃんと全部話す」
「……分かった」
私が頷くと姫はほっとしたように小さく笑って、今そんな顔をするなんて卑怯だと思った。
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