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「先輩、それドレッシングじゃなくてソースですよ?」
「え?あ、ほんとだ、、」
カフェテリアで向かいに座る倫花ちゃんに指摘されて、慌てて手にしたソースをテーブルに戻す。
あやうくランチのアジフライ定食に付いている小鉢のサラダがソースまみれになるところだった。
「先輩どうしたんですか?過去最大級にボーッとしてますよ?」
「そ、そんなに?」
「前も似たようなことありましたけど、今回はそのときより重症です。今日は週次会議でも上の空でしたもん」
倫花ちゃんはテーブルに頬杖をついて私の顔を覗き込む。会議中にそんなに腑抜けた態度が出ていたなんて我ながら情けない。
「ううん、何でもない。えっと今週末合コンでいい感じになった人とデートに行くんだっけ?うまくいくといいね」
「まぁ頑張りますけど、その話はさっき終わったんですよ!」
「ご、ごめんっ」
倫花ちゃんはジトっと訴えるような目をしてから、私の慌てぶりがおかしかったのかくすくすと笑う。
「今話してたのは、10月からS製薬プロジェクトの開発チームにアサインされたって話です」
「え、本当に?よかったね!」
「先輩が推してくれたんですよね、さっき四宮課長に聞きました」
ありがとうございます、と改まってお礼を言われて私は首を振る。決まったのは倫花ちゃんの能力が認められて期待されてのことだ。私なんてほとんど何もしていない。
「そっかぁ、それなら本格的に引継ぎを進めなきゃだね」
「引継ぎ先って、もしかして上山くんですか?」
「うん、その予定。入ってから日は浅いけどまだあと2ヶ月近くあるし、私もフォローするしね」
上山くんは、年齢は倫花ちゃんと同い年なのだけれど、今年同業他社から転職して三課にやってきた男の子だ。前の会社がよほどブラックだったらしく、転職先であるうちの会社で心機一転頑張ろうと意気込んでくれている。
「プロジェクト全体の引継ぎ資料はあるから、倫花ちゃんが普段対応している課題の対応とか、そういうのから徐々に一緒にやったり資料作ったりしてもらえるかな」
「了解です、任せておいてください、ビシバシやっておきますから!」
「うん、ほどほどにね?」
ランチを食べ終えてからしばらく雑談をしていると、テーブルに置いていたスマートフォンが震える。
何となく気になって手に取った画面に表示された通知を見て、私はスマートフォンを取り落としそうになった。
『久しぶり どうしてる?』
それは、賢吾からの2ヶ月ぶりの連絡だった。
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