15/15(フィフティーン・フィフティーン)

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ワタシ(アナタ)はハイティーンになったばかり 雲ひとつない五月晴れで 身を射す陽光がただでさえ横溢してやまない無根拠な自信(ぜんのうかん)と無尽蔵の自意識(ばんのうかん)に拍車をかける いまや操舵の利かない車輪になった両足は 「なぜ」に依らず勤労者たちを追い越していく 昨日の大雨が嘘のようにカラッと空気が乾いていて それでいてアイスコーヒーでもホットコーヒーでも飲めるくらい穏やかな微温で だからワタシ(アナタ)は 大人めかして(ゼウスきどり)でホットコーヒーをブラックで頼んだ 汗がこめかみをつたう ワタシ(アナタ)は溢れるナイーブなリビドーに任せて これっぽっちも美味しいと思っていない舌をまるめこみ 喉を通すにも口に流すにもあつすぎるコーヒーをのみくだす 峻嶺のような建物の麓に生え揃う木々の間々(あいま)を通り抜け 掌はおろか視界にすら収まりきらないこの世界 そのすべてを掌握した気になっていた だから知らなかった。あの子のことを。込み入った道の奥、築かれてからいかほどかになるかという、わたしの生涯の何倍をいきたかも分からない古びたアパートのベランダから 私を見ているあなたのことを。遥か地底から見下ろすあの子の視線を。2度目に口をつけたコーヒーはとっくのとうに冷めていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!