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ワタシはハイティーンになったばかり
雲ひとつない五月晴れで 身を射す陽光がただでさえ横溢してやまない無根拠な自信と無尽蔵の自意識に拍車をかける
いまや操舵の利かない車輪になった両足は 「なぜ」に依らず勤労者たちを追い越していく
昨日の大雨が嘘のようにカラッと空気が乾いていて
それでいてアイスコーヒーでもホットコーヒーでも飲めるくらい穏やかな微温で
だからワタシは 大人めかしてでホットコーヒーをブラックで頼んだ
汗がこめかみをつたう
ワタシは溢れるナイーブなリビドーに任せて これっぽっちも美味しいと思っていない舌をまるめこみ
喉を通すにも口に流すにもあつすぎるコーヒーをのみくだす
峻嶺のような建物の麓に生え揃う木々の間々を通り抜け
掌はおろか視界にすら収まりきらないこの世界 そのすべてを掌握した気になっていた
だから知らなかった。あの子のことを。込み入った道の奥、築かれてからいかほどかになるかという、わたしの生涯の何倍をいきたかも分からない古びたアパートのベランダから 私を見ているあなたのことを。遥か地底から見下ろすあの子の視線を。2度目に口をつけたコーヒーはとっくのとうに冷めていた。
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