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柾木君と京田君・1
「将真、これから部活か?」
夏季講習が4時に終わり、部室に顔を出してみようかと廊下を歩いていたら、後ろから声をかけられた。現役時代、俺とバッテリーを組んでいた正捕手の京田信之介だ。
「そろそろ終わってるかもだけどな。お前は?」
「図書室……って、痛てて」
そんな柄じゃないのに優等生ぶるから、首根っこ掴んで、引っ張った。
「お前も付き合え」
「分かった、わーったって!」
どうせ最初から部室に行くつもりだったのは、バレバレだ。図書室は反対方向なんだから。
「そういや、昼前の、見たぞう」
「……なにを」
「熱烈ラブコール。痛てっ」
パコンと頭を軽く叩く。ふざけんな。
「アイツ、いい加減にさせねぇと」
「でもさ……本当のところ、お前と山之辺って、どうなのよ?」
「どうもこうもあるか」
「アイツ、明け透けだけど、あんなに懐かれたら、可愛いんじゃねぇの」
他人事だから呑気に言えるんだ。その“明け透け”のせいで、俺は周囲に誤解されているんだぞ。男もいけるらしい、なんて。
「何度も言うけど、俺が好きなのは」
「「巨乳」」
声が揃う。これも、いい加減うんざりだ。そもそも、俺は言うほど巨乳好きなわけじゃない。こう言っておけば、男の山之辺に一縷の望みもないことが伝わるかと思ったのだ。ところが、アイツは諦めなかった。
「あーあ、誰か紹介してくれねぇかなぁ」
嘘でもいいから彼女が出来れば、諦めるだろうか。いや、それじゃ、女の子に不誠実だよな。
「よゆーじゃん、受験生」
「分かってるって。受かるまで、素敵な出会いはお預けだ」
「つくづく、俺達ってストイックだよなぁ。男子校、部活、受験生……欲望の抑圧が半端ねぇわ」
隣でぼやく信之介は、俺と同類だ。俺達は、県の強化選手に選ばれたこともあるから、この地区じゃそこそこ有名だ。他校の女の子から黄色い声援が飛んだり、手紙とかもらったこともある。けれど、他に優先すべきものがあるから自制できる。もちろん、健全な欲望はあるけれど。
「……だから錯覚するんだよ」
不覚にも、あの時、俺は癒されて……確かに元気をもらったんだ。XYのペッタンコの胸板に。
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