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柾木君と京田君・2
昼休みも残り数分。自然風を求めて、鳩のように教室の窓に並んでいると、野球部の後輩達がグラウンドに出てきた。今日の練習メニューは遠投か。グラウンドの縁に用具を降ろして、山之辺がこちらを見上げた。そして満面の笑顔で両手を大きくブンブンと振ってきた。苦笑いを浮かべ、隣の信之介が手を振り返してやっている。
「お前さぁ、昨日、アイツに話つけたんだろ」
「それな……失敗した」
「はぁ?」
火に油を注いだ、とは流石に言えず。ただ、『はっきり断っても、諦めてくれなかった』とだけ打ち明ける。
「そりゃ……これまでと、なーんにも変わんねぇだろ」
「アイツは、俺のこと応援したいんだって言うんだよ」
「ふぅん?」
「なんで、俺なんだろうなぁ……」
山之辺に限らず、マネージャーに接する機会は少なくなかったが、3年の早瀬や2年の浅野に対する態度となんら変わらなかったはずだ。むしろ1年の山之辺とは、ほんの数ヶ月しか関わってこなかったのに。
「もしかして、お前、覚えてねぇの?」
友の口調の変化に視線を向けると、彼は疑わしげな眼差しで俺を伺っている。
「……なにを?」
「えっ、え、本当に?」
「だから、なんのことだよ」
「うっわー、そりゃ、ねぇわ!」
「ちょっと待て! お前、なんか知ってんのか!」
「うわー、引くわぁー」
「おい、信之介?」
ヘッドロックをかけて吐かせようと腕を伸ばしたが、ちょうど予鈴のチャイムが鳴って、獲物には逃げられた。
『中2、夏、病院』
現国の教師が教室に入ってくる寸前、信之介からノートの切れ端が回ってきた。そこには思わせぶりな3つのヒントが殴り書きされていた。
中2の夏、といえば――。
開いた教科書の字面を眺めたまま、記憶の流れを遡り、川底から思い出をさらう。あの頃も、野球漬けの日々だった。当然、夏休みも練習と近隣校との練習試合に明け暮れていて――。
「そうか!」
「ん、なんだ? 柾木、質問か?」
思わず立ち上がり、教室中の視線を集めてしまった。板書していた教師が振り返り、不審な眼差しが俺を捕らえる。
「あ、いえっ、すみません!」
ガタガタ椅子を鳴らして、慌てて着席する。2列廊下側の席の信之介が、ニヤリと笑うのが見えた。
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