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左目、そして右目。
悲鳴を上げる間もなく、鈍い衝撃とぶちぶちと何かが頭の奥で千切れる音が耳に届く。そして一瞬ののち、舞台が暗転したように――墨汁に飛び込んだと錯覚するほどの黒。
不思議とトミは痛みを感じず、だが漆黒の闇に飲み込まれた。
何が起きたのかさっぱりわからない。
目を開いているのに、上も下もわからないほどのひたすらな闇。
「いや……暗い……何も見えない……だ、旦那様……?」
手探りで床を這いずるトミに、僅かばかりの同情の視線を投げ、主は大事そうにトミの目玉を陶器の皿に載せた。それはころりと皿の上で転がった。
「やはり美しい目玉だ。お前の目玉は千代に使わせてもらうよ。……そうだな、目玉の礼に、少し昔話でもしてやろうか。――私のこの姿はね、仮の姿だ。本当の姿は、うわばみとかおろちとか呼ばれる……お前たちからは妖怪だの化け物だの呼ばれる、巨大な蛇だ。その化け物も、最初から丸太のような体をしているわけではない。私にも小指の先ほどの大きさの頃があってね。二百年ほどの昔、ちっぽけな蛇だった私は、獣に襲われて死にかけていた。それを助けてくれたのが、千代だ」
トミはぽかんと口を開いて、ひとかけらの光もない闇を見つめていた。
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