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延々と曲がりくねった山道を歩かされ、草履の鼻緒が擦れてじわじわと痛くなってきた。
自慢の足に、まめでもできたらどうしてくれるのか。
トミは忌々し気に先導する男を睨んだ。
「ちょっとぉ! 一体いつになったら着くのよ! もう足が棒だわ!」
「もう間もなくですから。――そら、見えてきた」
男が指さす先に顔を向けると、道の先が突然ひらけ、豪奢な屋敷が姿を現した。
その建物の風格に、思わず目を奪われる。
全体的には昔ながらの和風な造りだが、窓の枠や屋根の形が今流行りの舶来の意匠のように曲線を描いている。
こんな山奥に建っているのが不思議なくらいの、洗練された屋敷だった。
「どうですか、立派なお屋敷でしょう。こんなお屋敷で奉公できるなんて、幸運でしたねぇ」
濃紺の着物に中折れ帽を被った男が自慢するように言った。
トミはつんと顎を上げ、
「奉公に幸運もなにもあったもんじゃない。こんな山奥に追いやられてさ」
「借金が返せなくなったんですから、働かなきゃ返せないでしょう」
男の言うことは正しかったから、言い返せずにトミはふんと鼻を鳴らした。
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