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ぽっちゃりとして、褒めるとしたら人が好さそう、としか言いようのない凡庸な顔立ち。おまけに、目線はどこかあさっての方を向いている。
男がぺこぺこと頭を下げると、トミの腕を突いた。
「こちらがこのお屋敷の奥様、千代様だ。千代様は目が不自由だから、お力になって差し上げるように」
あぁ、それで。
それなら仕事をさぼっていても、見つかることはないなと考えて、トミはこっそり笑った。
「前に紹介してくださった奉公の方が突然姿を消してしまって、人手が足りなくて困っていたんです。来て下さって助かったわ」
おっとりと千代が言う。
どうやら、自分の前の奉公人もほとぼりが冷めて姿をくらましたらしい。
「坂本屋さん、これからもよろしく頼みますね」
「ええ、もちろんでございます。――トミ、しっかりお勤めするように」
はいはい、と慇懃無礼に頭を下げ、トミは唇を歪ませた。
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