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トミは屋敷の片隅に部屋を与えられ、その日から仕事に駆り出された。
と言っても、言いつけられたのは屋敷の掃除だったが、廊下の隅に薄く埃が積もっている程度で楽なものだった。
はたきを振り回しながら屋敷の中をうろついてみたが、だだっぴろい屋敷にいるのは千代と移動の補助をしている老女の二人だけ。覗いた台所にも人の気配がなく、トミは顔を顰めた。
まさか、あたしに食事を作らせようとしているんじゃないでしょうね。
そんな手の荒れそうなことをするなんて冗談じゃない、と思っていたが、夕方が近くなって老女に裏口に呼びつけられた。
行ってみると、木製の岡持ちがずらりと並んでおり、その中に夕食の料理が入っているから座敷へ運べと言う。
それで料理人が一人も屋敷にいない理由を知る。
おそらく、料理人を複数人常時雇うよりも、こうして麓の町から届けてもらうほうが安く上がるのだろう。
トミが作らなくて済んで安堵しながらも、屋敷の規模の割りにみみっちいことをすると、いくらか不安になってきた。
ちゃんと借金への返済、されるんだろうね。
契約では半年奉公すれば借金を肩代わりしてもらえることになっていた。
沈む船からは鼠も逃げると言う。
トミの前の奉公人も、きな臭さを嗅ぎつけて逃げ出したのかもしれない。
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