千年、あなたとともに

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 座敷の襖の前で足を止め、軽く喉を鳴らす。 「――旦那様。トミです」 「ああ、入って」  ぞくりとするほど色気のある声。トミはいそいそと部屋の中に入った。  主が卓の向こうで、静かに微笑んでトミを迎えている。  ゆったりと着こなした質のいい着物が、つり下げられたランプの明かりで銀に艶めいて見える。手招きされ、しゃなりしゃなりと畳を歩いて隣に腰かけた。 「いつも一人で飲んでいるんだが、たまには誰かと話でもしながら飲むのもよいと思ってね」  目の見えない奥方じゃ、お酌もできないですからねぇ。  (しな)を作って、トミは媚びるように主を見つめた。  その熱を帯びた視線を受けて、主は整った顔にやんわりと笑みを浮かべた。それは、何かを期待しているようにも見えた。  手を伸ばし、トミの顎を軽く摘まむ。その指はしなやかでひんやりとしていて、触れられた箇所からトミの全身に痺れが走るようだった。 「美しい瞳をしているな」  見惚れたような熱いまなざしで、主が囁いた。  ――頭がくらくらとするような、甘美な言葉。  自分の色香で、つまらない妻に飽き飽きした主をよろめかせてやろうと思っていたのに、手玉に取られているのはトミのほうだった。そう思っても、抗えない。
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