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「実は、坂本屋にお前を指名したのだよ。美しい瞳をしていると町で噂になっていたからね」
そういうことかと合点が行った。――女中などとは名ばかりで、初めから妾にするつもりで自分を呼び寄せたのだ。
とどめのように、主は誘いの言葉を付け足した。
「どうだろう。もう女中の仕事はしなくていい。裏の離れでのんびりして、時折私の相手をする……というのは」
断る理由などありはしない。
トミは一も二もなくその話を受けた。
夜のうちに荷物を持って移動した裏の離れは、小さいながら石造りの重厚な建物だった。
中はしっとりとした板の間で居心地もよく、最新の雑誌などの時間をつぶすものがたっぷりと与えられ、本当に何もしなくてもよかった。
ただ、三度与えられる食事が野菜や豆腐の淡白なものばかりで、不味くはないのだが物足りなかった。
まるで、坊さんの精進料理みたいだわ。
あたしを瘦せさせたいのかしら?
主が離れにやってきたときに、肉か魚も出してもらうようにそれとなく頼もうと考えていた。が、予想に反してなかなか主は姿を見せない。
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