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夜の村に、消防車のサイレンがけたたましく鳴る。
玄関に向かう青年を、少女が止めた。
「いいのよ」
「でも」
「あんたが外に出ないこと。それが皆んなの願いなんだから」
※※※
寒九郎は雨男だ。
彼が外に出ると雨が降る。なので、外出時には傘をさす。
彼は雨を降らす事はできるが、雨をやませる事はできない。よって、外にいる時は傘が必須、外での体育の授業はいつも見学だった。
そんな彼が、傘をささずに外に出られる機会が、ひとつだけある。
村で、火事が起きた時だ。
「雨だ」
「もう来たぞ」
雨を連れて、寒九郎が駆けてくる。この村の火事の光景だ。
寒九郎が火事の現場に着いた頃には、火はだいぶ消えていた。息を切らせながら、びしょ濡れの青年は笑う。
「……よかった」
その姿を、悪意をもって見た者がいたのだ。
※※※
「あんたが外に出たいがために火をつけてる、って、村の奴らが勝手に誤解して、勝手に自滅してるだけよ。もうほっときなさい」
六花が言う。雪女の彼女も、かつて似たような経緯で火事を消すのを辞めていた。
「けど」
六花はため息をついた。彼女は物の怪だが、寒九郎はその昔、家の前に捨てられていた人間の子供だ。人の世で暮らせるようにと、村に下り学校にも行かせたが、今更ながら辞めておけばよかったと思う。
「利用するだけ利用して、気に食わなくなれば捨てるのが人間よ。あまり情をかけるものじゃないわ」
寒九郎は下を向いた。
「六花には…僕がそういう風に見えてるの?」
「! バカ言わないで、あんたは……」
「ごめん」
言葉に詰まる六花を、寒九郎は寂しげに笑って眺めた。
「きっと、僕はどっちつかずだから、どっちのようにもなれないんだよ」
※※※
燃える家の前で、家主は雨男を待っていた。
さっき、放火犯が捕まった。むしゃくしゃしてやった、そんな理由でこんな派手に家が燃やされるなんて。
電話もかけたが通じない。誰だよあいつのせいだって言ったのは!
消防車が追加で来た。
頼む、雨男よ来てくれ!
家主の顔に、雨粒が当たった。
(了)
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