血を奪いし者の宿命

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私が初めて殺めたのは、若い女だった。 その女のつがいである男が叫び、私の手からその女を奪い返すように抵抗する。 どんなに力を使って私からその女を引き離そうとしても、到底かなわないのに。 ――弱い、弱すぎる。 そんな力では、私からこの女は奪えない。 私の手によって首を絞められている女の心からは「私はどうなってもいい、あの人だけは逃してください」と何度も何度も懇願するように涙を流しながら伝えてきた。 お互いにお互いの命を守っている人間が鬱陶しく感じ、女の細い首に爪を立てた。 苦しそうに呻いていた声が途絶え、一瞬にしてくたっと力尽きた。 同時に聞こえて来た男の絶望に悶えるような声が、200年過ぎた今も鮮明に脳裏に焼き付いている。 すぐに男の記憶から女を消せば、嫌な夢から覚めたように、またいつもと変わらぬ日常に戻っていった。 あんなに泣き叫び守った女のことなんて、もう微塵も覚えていないのだ。 魔界に戻り、その女の血を飲んだ。 喉を通る血の味は、身体が震えるほど美味いはずなのに、吐き気がした。 死に際の女の顔と、男の声がまとわりつく。 そんな心に逆らうように、身体は力で満ちていく。 逃れられない力で身体が満たされていくことに恐怖を感じた。 その日から、人間の狩りに行くことはなくなった。
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