血を奪いし者の宿命

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「無理をしてほしくない。幸せになってほしい」そう言いながら、女はまた涙を流した。 人間は、他者のために自分を犠牲にするのが好きな生き物だと思った。 女のために身体を張って働く男。 男の幸せのために私に命を捧げるのが惜しくない女。 愚か過ぎる。 たった数十年の命だと言うのに。 逆に、たった数十年しか生きられない命だからこそ、ここまで他者を想い生きることができるのかとも考えた。 首筋に牙をたてた瞬間、女は涙を流しながら言った。 「ありがとう」と。 それが最期の言葉だ。 一人目のときはまるで違う血の味がした。 つがいの男は女が死んだことにも気付かず、変わらず働き続け、やがて身体を壊し朽ちていった。 女が生きてようが生きてなかろうが、その男にとっては関係のないことだった。結局働かねば生きていけない人間たちは、自分のためよりも、誰かのために働き生きていくことに幸せを感じるのだ。 生きがいを、自分以外の誰かにみつける。 そんな愚かな人間に、いつしか私は自分を重ねているときがある。 私はなんのために生きているのか、なぜ不老不死を望むのか。 誰かのために生きるとはどういうことなのか。 理解したかった。
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