2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
第2話 第二の人生を考える
僕はスクーターを走らせながらいい年こいて泣きべそをかいていた。
気持ちよく晴れ渡った春先の鎌倉の海はたくさんのサーファーで賑わっている。
七里ガ浜の海岸沿いに僕はスクーターを停めた。
寄せては返す波は穏やかで。
波の漣の音が耳に優しい。
会社を早退した。
こんな風に会社から逃げ帰るような事初めてだった。
有給はたくさん余っていたし僕はもうあの会社には用なしなんだから構わないだろう。
部長からの残酷な宣告を反芻する。
殺風景なミーティングルームと部長の禿げあがった頭ばかりが残像に出て来る。
『花咲君。君はリストラ対象に上がっている』
『僕が? 冗談ですよね? だって僕は大学卒業して入社してからずうっと一筋に頑張って身を粉にして働いてきたじゃないですか! そんな殺生な』
『まあ上の判断だから。君は真面目で面倒見が良いがいかんせん普通すぎるんだよ』
『はあぁっ!?』
『早期退職すれば退職金が増えるだろう。ご家族とよく話し合ってくれたまえ』
『くぅっ!』
僕は悔しかった。
理不尽さにガックリと折れてしまいそうだった。
浜辺に向かい階段を降りて落ちてる流木に腰掛けた。
「くっそぉ、何が普通すぎるだっ!」
リストラと宣言されて浮かんだのは家族の顔だった。
弥生さんにどう報告しよう。
✧
「へぇ、リストラね。大したことないわよ。あなたさカフェやりたいって言ってたじゃない、やればいいわ。鎌倉中に噂になるぐらい素敵なカフェにして馬鹿にした会社の奴ら見返してやんなさいな」
「えっ?」
弥生さんはあっけらかんとしていた。
僕の妻、弥生さんは強い。
逆境や困難な状況ほどメラメラと燃えるタイプだったのを改めて思い知らされる。
弥生さん、豪快に笑ってる。
「暮らしのお金や資金は心配しなさんな。今まで家族のためにありがとう。これからは第二の人生だと思ってちょっとは好きな事やれば良いじゃない。ねっ?」
お先真っ暗だと思ってた。
でも違った。
弥生さんはドッシリと肝が座っていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!