妖怪

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「大丈夫ですよ。今週の土曜日に私は退院します。荷物をビジネスホテルに置いたら、すぐに明彦さんの家に行きますね」  土曜日か。母がリンパ節の癌を取るのが来週の月曜日。どうにか間に合う。 「そうですか。木村さんもつらそうなのにすみません。そうだ、これ使ってください」  明彦は袋に入ったマグカップを渡した。凛香は袋を開ける。 「わあ、綺麗。貰っちゃっていいんですか?」 「はい。僕、紫陽花が好きなんです。木村さんに使っていただきたくて」  凛香は大事そうに両手で包み込むと笑顔になった。 「次に明彦さんがお見舞いに来るのはいつですか?」 「毎日でも来たいんですが学校が遠いので土曜日になってしまうと思います」  母も寂しいだろうが仕方ない。 「じゃあ、私が退院する日ですね。お見舞いを終えるのが三時として四時に待ち合わせしましょうか。直接明彦さんの家に行ってもいいんですけど」  昨日から思っていたが凛香は教えなくても明彦の家が分かっているようだ。特殊な力があるからだろう。 「四時に家で待っています。父は今週も休日出勤って言っていたので。あの、お祓い代は幾らですか?」 「昨日も言った通り、私から言い出したんで要りませんよ」  明彦はお年玉を貯めているのでお金を払うつもりだったが、凛香が要らないというのに無理やり渡すわけにもいかない。また何かプレゼントを買ってこよう。  談話室を出たところで凛香と別れて明彦はお茶を買いに売店へ行った。ふりかけと海苔の佃煮も切れてしまったときのために買っておいた。  家族で仲良く三時間も話をした。母が疲れると思ったので明彦は「もうそろそろ帰ろうか」と言う。父は時計を見て頷いた。  それから土曜日まで毎朝きちんと東の窓を開けた。疫病神は姿を現さなかった。
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