妖怪

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 休日の病院は静かだ。明彦は受付で名前を書いて面会者のネックストラップがついたカードを受け取った。母の部屋は五階だ。四人部屋の廊下側。女性の部屋に入るのは気がひけるが仕方ない。 「お母さん、僕だよ。明彦だよ」  カーテンの中にいるであろう母に声をかける。内側からカーテンが開いた。母がベッドを起こして座っている。顔色が悪い。 「明彦、来てくれたの」 「ああ、洗濯物とかあるだろう。預かって僕が洗濯してきてやるよ」  母は頭を振った。 「看護師さんに聞いたら洗濯室があって、乾燥機もついているらしいの。私が自分で出来るよ」 「だってお母さん、体がつらいんじゃないの?」 「昨日はしんどかったけど、今日は楽よ。明彦にパンツなんか洗わせるわけにいかないじゃない」  本当だろうか。声がなんだか弱々しい。でも無理やり洗濯物を持ち帰ることはできない。 「病院のご飯は食べている?」  母は細い。食べても太れない体質だったらいいが、食べなくて太らない体質だ。だからなのかよく熱を出す。病院ではちゃんと食べてもらいたい。 「全部は食べてないけど、食べているよ。明彦こそ、お父さんとカップラーメンばかり食べているんじゃないの? 出前でもいいからちゃんとした物を食べて」  確かに母が入院してからはカップラーメンとコンビニのお握りばかりだった。出前か。中華料理屋なら定食類がある。今夜は近くの店に出前を頼もう。それより母だ。病院のご飯はカロリー計算をしてきちんと成人女性の一日分の食事を作っているはずだ。全部食べてもらいたい。
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