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「僕もちゃんとしたものを食べるからお母さんも全部食べてくれよ」
「分かった。分かった。あ、売店で雑誌を買ってきてくれない? 朝早く目が覚めちゃうの。テレビをつけるわけにはいかないでしょう。やることがなくって」
「週刊誌でいい? それともファッション誌?」
「週刊誌でいいよ」
お金は父から預かっている。明彦は頷いて病室を出た。売店は一階だ。エレベーターを待つ。病院のパジャマを着た二十代後半か三十代くらいの女の子が頭を下げた。知り合いだったっけと思いながら頭を下げる。女の子は隣に立った。エレベーターはまだ一階だ。
「分かります? 同じ病室の木村凛香です」
そうだ。入院した日の夜に会ったことがある。あのときはバタバタしていたから顔がうろ覚えだった。
「木村さん。分かりますよ。木村さんも買い物ですか?」
「はい。特に欲しいものはないんですけどね。私のところ、誰もお見舞いに来ないから暇なんです。入院一週間になるから売店もいけるんで。貧血が酷いから気を付けなくてはいけないんですけどね」
母はまだ許可がおりてないから売店に行けないが凛香は売店に行けるらしい。貧血は可哀そうだが。それにしても、平日なら分かるが土曜日にお見舞いが来てくれないのは寂しいだろう。可愛いから彼氏がいそうなのに。それに親だってまだ若いだろう。お見舞いを断っているのだろうか。
「お見舞いはいやですか?」
そう言ったときにエレベーターが来た。二人で乗り込む。明彦は一階を押した。
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